東京美食エリアの 最前線 | ヒトサラ
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ダルマット 西麻布本店
- 休日には名店の食べ歩きが趣味の平井シェフ。自らが全国各地を周り出合った食材を料理に使うのも特徴だ。西麻布の本店を中心に、現在5店舗の【ダルマット】の系列店を統括している
- 料理はすべておまかせのため、メニューや料理名は存在しない。こちらは山形牛トモサンカクのロースト
- 桃とフルーツトマトの冷製パスタ。春は苺やサクラ、秋は洋梨の冷製パスタに。冬はこれがリゾットになる
- 西麻布の雑居ビルの地下に広がる店内。個室やカウンター席もある。1階には系列店の【オッジダルマット】もある
- ワインもまたリーズナブルな品揃えが多数。さらにハウスワインは1500円で飲み放題を実施
おまかせだから可能になる
変幻自在のイタリアンアミューズからはじまり、野菜の前菜、魚介の前菜、肉の前菜、冷製パスタに、温かいパスタ、メインディッシュとすべてがおまかせ1本。全7皿のコースで料金はなんと6000円前後。単純計算でもひと皿1000円に満たない。そしてそのどれもが、力強い素材の持ち味を十二分に引き出した骨太のイタリアンなのだ。これがオープンより10年にわたり、西麻布の路地裏で常に予約の取れない人気店【ダルマット】の基本だ。
「初めて訪れた寿司屋でも、おまかせでオーダーすれば、常連さんのように丁寧に扱ってもらえる気がしたんです。お腹の満足度を聞かれたり、苦手な食材を直接大将と話せたり。だから洋食の文化にもおまかせのスタイルがあっても面白いかなと思ったんです」
すべておまかせにすることで食材のロスはなくなり、料理の自由度も高くなる。もちろん、それが価格へも転化できる。そうして、オープンスタイルのカウンター越しに、食べて笑い、飲んで語るゲストを望みつつ、臨機応変に調理を楽しみ平井正人シェフもまた笑う。
「良いことずくめ」と平井シェフ。
渡伊経験や【ラ・ベットラ・ダ・オチアイ】、【クラッティーニ】など、数々の名店、名シェフの元で研鑽を積んだその実力は折り紙つき。ゲストはただただシェフのおまかせに、身を委ねていただきたい。 -
Le Bourguignon
- ブルゴーニュにある一軒家レストランをイメージしたという店内。ナチュラルな雰囲気を醸し出すが、カジュアルとは違う、小さなレストランならではのアットホームな温かさが、美味なる料理とともに上質な時間を演出する
- 肉が軟らかく独特の旨みが後を引く『ブレス産小鳩のローストロメーヌレタスのファルシージロール茸添え 』
- 出身地である北海道の食材もお気に入り。スペシャリテは『毛ガニとナスとアボカドのミルフィーユ仕立て』
- ワイン通としても知られる菊地氏。親しい生産者がつくるブルゴーニュワインを中心に約300種をオンリスト
- 「料理の味だけで勝負する店にはなりたくない」と菊地氏。ゲストが帰る際は必ずエントランスまでお見送りを
胸に刻んだ初心と弛まぬ努力
名声に傲ることないシェフの気骨「フランスでの修業も3年目に入って、充実した日々を過ごしたのがブルゴーニュだったんです。ワインを覚えていったのもこの頃で、休日を使って、200軒ほどの生産者を尋ねたんじゃないかな」。
フランス語で“ブルゴーニュ風の”を意味する店名の由来を、オーナーシェフの菊地美升さんはそう話す。
多くの有名シェフを輩出し、オープン15年目に入ってなお、予約の取れないレストランとして絶大な人気を誇る【Le Bourguignon】。界隈のフレンチでいえば老舗に分類される店だが、菊地氏は初心の気持ちを忘れることはない。そのひとつの例が、夏の2週間ほどの休暇だろう。必ずフランスへと足を伸ばし、現地のレストランで研修生として働くのは毎年の恒例行事となっている。
「いちスタッフとして働くことで、オーナーシェフとしてではない目線で店を客観的に見ることができる。何より新しい何かを発見して自分の店に持ち帰れたら」と、料理に対しては今も新人のようにどん欲な方なのだ。
だからこそ、菊地氏のつくるフランス料理はクラシカルでありながら、決してコテコテしすぎることはない。オープンから15年を過ぎてなお、進化し続けるフレンチ。多くのグルマンを魅了し続けるのも納得の一軒だ。 -
MASA'S KITCHEN
- まるでおしゃれなバルやビストロのような店内。カウンターを中心に女性一人でも訪れやすい店を目指した。オープンキッチンにすることで、中華ならではの豪快な炒めや包丁さばきも望め、カウンターは楽しみが尽きない
- 『前菜の盛り合わせ』。生ザーサイの浅漬、四川風のよだれ鶏、ピータン豆腐など、定番と季節の味を盛り込む
- 『トウモロコシと豚スペアリブの上湯スープ』。コース料理で提供。金華ハムの旨みがたっぷり
- 「すべての料理は医食同源を元に考えています。そこはやはり中華料理の真髄ですね」と鯰江シェフ
- すべてのコース料理に必ず使用するフカヒレも、氏を象徴する代表的な食材。澄んだスープで供する姿煮は絶品。
中華であって中華でない
既成概念を越えた味で勝負およそ中華らしからぬ、コンクリート打ちっぱなしの壁や、ステンレスを効果的にデザインに活かしたカウンター席。それまで主流であった円卓の高級中華料理店にも、街場の中華屋さんにも属さない、新たな中華料理の可能性を示すのが【MASA'S KITCHEN】。
シェフ・鯰江真仁氏の料理は自身が修業を積んだ四川料理を源流としながらも、その枠だけに留まらない。例えば、店を代表するメニューのひとつ『前菜の盛り合わせ』であれば、まずは盛り付けの美しさに目を奪われる。一人前ずつのスモールポーションで供されるその一皿には、中華風のガスパチョもあれば、ビールを呼ぶ生ザーサイ、名物のよだれ鶏や、昼夜2回に分けて焼き上げる広東風のチャーシューも。
「ベースがしっかりしていれば、見た目や食材はいろいろチャレンジしていきたい。食べてみて、しっかり上湯が効いた中華料理に落とし込めている。それでいいのではないかなと思います」
洋のエッセンスを取り入れながら、見目麗しい盛り付けで供される料理は、まさに中華の概念を軽々と飛び越える。味付けもまた、素材の味を引き立てるように花椒や唐辛子は控えめに。そうすることで氏の料理は、繊細な白ワインにもぴしゃりとマッチする。それでもなお、根底の味が丁寧な中華スープであることで、充足感はまさに中華のそれ、なのである。4000年の歴史が培った中華の底力は、現在進行形で進化中であるのだ。 -
匠 進吾
- おまかせとして鮨を握る以上、つけ場に立つ高橋氏にとってゲストにいかにリラックスをしてもらい、食の時間を演出するかも大切な仕事のひとつ。カウンター鮨に慣れていない人にとっても、こういう店の存在は実に頼もしい
- 店内はカウンター8席のみ。圧迫感を出さないよう、唐津焼の陶器を飾るだけで無駄な装飾を限りなく排除した
- 光り物は高橋氏が特に力を入れるネタ。シンコやコハダも締め加減や包丁の入れ方で持ち味を最大限に引き出す
- 『カマスとナスの焼き浸し』。表面を軽く炙った香ばしいカマスにナスの甘みと風味がそっと寄り添う
- 酒蔵で半年間にわたって酒造りの修業も積んだ高橋氏。米の旨みとキレのいい純米酒を中心にした日本酒も揃う
江戸前鮨といなせな心配りに
職人の技がカウンターに息づくカウンター鮨というと、多少なりとも身構えてしまう人も多いのではないか。しかも、それが2万円~のおまかせとなればなおさらだろう。
だが、ここ【匠 進吾】ではその必要はない。一品料理を交えたおまかせの鮨は、ひとり一人に合わせ実に小気味いいテンポで握られ、その中でお酒が好きな客がいれば、肴を多めにしたり、逆にお酒を飲まない客には握りを増やしたり。客の表情を見逃さず、肩の力が入りすぎていれば、何気ない会話をはさみ緊張を解きほぐしてみせる。目の前に供される美味にただただ舌を巻けば、カウンター鮨に対する気後れも杞憂に過ぎなかったことに気づくはずだ。
「『美味しかった』と言っていただくのはもちろん嬉しい。けれど、自分にとって一番グッと来るのは、やっぱり『楽しかった!』というひと言なんです」
店主の高橋進吾氏がそう言い切るのも、鮨に対する揺るぎない自負心があるからだろう。旬の魚を使い、職人の技をあの手この手で施した江戸前鮨の旨さは、四谷の名店【すし匠】の中澤氏のもとで積んだ18年のキャリアが如実に表れている。その実力はあえて言うまでもないかもしれない。客が口を揃える「楽しかった」の言葉には、「美味しかった」という悦びも含まれているのだから。 -
IL TEATRINO DA SALONE
- カウンター席の特長を活かし、料理の説明はシェフも行う。料理の仕上げなどは目の前で行われ、次の皿への期待感が高まる。奥行きのあるカウンターやゆったりとした椅子は居心地もよく時を忘れさせてくれる
- 石や木など自然素材を使う盛り付けも特徴。『カンノーロ、海藻チップス、プロヴォローネとグラナパダーノ』
- 3年10ヶ月のイタリア修業で、マルケ、カンパーニャ州など各地の郷土料理を学んだ
- シェフのスペシャリテ、魚介のスープ『ズッパ ディ ペッシェ』。コースは月替りだが、こちらは必ず登場する
- ワインはイタリア産の自然派。あえてハーブやスパイスにワインをぶつけるなど、枠に囚われない新たな提案も
食事を通して感動を演出する
劇場という名のリストランテ店名に冠した“イル テアトリーノ”の意味は、“小さな劇場”。この店でゲストは食事のひとときを、まるで上質な芝居を見るかのように楽しむことができる。例えば目の前で料理が仕上げられるライブ感、あるいは対話を主軸としたきめ細かいサービス。その日、その瞬間だけにしかない一期一会の出会いが、この店の魅力の根幹をなしている。ゆえにハイクラスのリストランテでは珍しく、この店の主役はカウンター席。繰り広げられる舞台を目近で眺める、最高の特等席なのだ。
無論、その“劇”に料理が果たす役割も大きい。メニューは月替りの1種類のコースのみ、シェフが全身全霊をかけるドラマチックな展開が持ち味。伝統に敬意を払いつつ、シェフ独自のフィルターを通して再構築することで、ここでしか味わえない美味に昇華されるのだ。港町の素朴な魚介スープはキレのある酸味を纏い、またナポリの伝統的な揚げ物は濃厚なチーズの旨みを内包する。プレゼンテーションには斬新な発想と少しの遊び心。舌で、目で、五感で楽しむ、食事という時間。そんな最高の舞台は、忘れ得ぬひとときとして、深く心に刻まれることだろう。
※このページのデータは、2015年8月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。