旬中華に熱視線! | ヒトサラ
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蓮香 れんしゃん
- 小山内氏はかつて麻布【ナポレオンフィッシュ】の料理長として腕を振るい、名店に押し上げた人物。確かな食材知識と、その持ち味を引き出す技術と味付けのバリエーションは、その豊富な経験に裏付けられている
- 四川省ではファストフードとしても愛される辛口の『鉢鉢鶏』。串を使わず木鉢に盛り付けるのがこちらの流儀
- ある日のメニューの『発芽大豆の炒め』。ささげの漬物を食材としてではなく、調味料として使う田舎料理
- 酒は冷蔵庫から各自で直接取り出すセルフスタイル。2900円均一という採算度外視の価格設定がうれしい
- 「かつては廃墟でした」という建物が舞台。飾り気はないが、不思議と居心地の良い空間になっている
中国各地を歩いて見つけ出した
田舎料理を日本の地で再構築中国料理の看板を掲げるものの、この店には酢豚もエビチリも麻婆豆腐もない。メニューに登場するのは、親から子へ受け継がれる家庭料理、限られた地域でのみ食べられる田舎料理、辺境の村に脈々と続く少数民族の料理。当の中国でさえ忘れつつあるような料理を日本の地で再現するのが、ここ【蓮香】なのだ。
料理の元となるのは、すべて小山内耕也シェフの舌の記憶。バスを乗り継ぎ、広大な中国のあちこちに足を運び、街の小さな食堂で料理を頼む。そこで出会った味の記憶を、豊富な知識と確かな技術で再構築する。「ネタには困りませんよ。それこそ一生かかっても足りないぐらい」と小山内氏が笑うように、広大な国土と悠久の歴史に支えられた中国の食文化は無限。それゆえにこの店には、いつ訪れても驚きと発見があり、そして確かな満足を約束してくれるのだ。
少し無骨な店構えと、おまかせコース一本のメニュー、そして未知なる料理の数々。一般的なレストランの概念とは異なるかもしれない。しかし、ただひとつ確かなことは、どの料理も必ず旨いということ。それは今日も予約でいっぱいのテーブルと、客席に弾ける笑顔がはっきりと証明している。 -
銀座 やまの辺 江戸中華
- 受け継いだカウンターに合わせ、白木のテーブルや九谷焼のプレートなど和の様相で統一された店内。木の温もりに包まれながら中華を味わうというのも新しい。おまかせコースの約10品、土鍋ごはんを織り交ぜつつ江戸中華をご満喫あれ
- 北海道産松茸と京都産銀杏が香る『松茸の卵炒め』。飛来幸地鶏の卵とみじん切りの新レンコンの食感も面白い
- 山野辺氏が【日本橋よし町】の厨房を支えたのは僅かな期間。もともとは人気大型店の総料理長として活躍した
- ギネス認定予定という世界一甘い黄桃など果物ひとつに歴史あり。各食材への想いを聞けるのも店の醍醐味だ
- 『担々麺』のコシと喉ごしは稲庭うどんの製法でつくった稲庭中華そばによるもの。爽やかな刺激はブドウ山椒
名店の心意気を継承し
日本の四季を表現する江戸中華一言で表せば「粋な中華」である。まず驚かされるのが、割烹と見紛う白木のカウンター。40年以上、名店から名店へ受け継がれてきたものだ。美しく保つために日々磨き抜かれ、今では当初の半分以下の厚さという。2015年創業だが、老舗の魂が満ちた空間である。
【銀座 やまの辺 江戸中華】の歴史を語る上で、元々ここで店を構えていた【日本橋よし町】の話は外せない。和製中華料理の草分け的存在【大勝軒総本店】の元料理長が70歳から5年間だけの限定と決めて腕をふるった伝説の店だ。しかし、継承したのはその「江戸中華」と称された古き良き味だけではない。「料理にかける心意気を引き継いだ」とはオーナシェフの山野辺仁氏。夏の鮎、秋の蟹、冬の白子など旬を迎えた食材で、日本の四季を表現したいと「江戸中華」を看板に掲げた。
「気軽にご要望くだされば、お好みに合わせた料理をお出しします」
メニューはおまかせコースのみ。主な味付けのベースは尾崎牛のスネ肉や飛来幸地鶏、塩漬け熟成した豚肉などを弱火で丁寧に6時間煮込んだ上湯スープだ。可能な限り生産者の元へ訪ね歩き、厳選した素材を使用。土鍋で炊き上げる白米に至っては、契約農家にてシェフが田植えから収穫までをしたコシヒカリである。そんな奮闘努力ぶりをまったく見せずに、繊細な所作で調理を行うシェフの姿も、また粋なのだ。 -
Mimosa
- そのルーツを辿れば蘇州と広州に行き着くという上海の家庭料理。「中国醤油や砂糖をよく使うため、日本人にも親しみのある料理が多い」と南シェフ。食べ疲れしない、体に染み入るような料理の数々は【シェフス】時代から変わらない。
- 『金華ハムと大根のパイ(2個)』。金華ハムの旨味と塩味がしっとりと柔らかな大根にまで染み渡る
- 『葱油拉麺 上海油そば』。干しエビとネギの香りや風味、中国醤油のコクが麺によく絡む一品
- 『卵とトマトの薫香炒め』は【シェフス】時代からのメニュー。トマトは強火で炒め瞬間的にスモークした
- 店内はオープンキッチンに。上海の高級レジデンスの一室をイメージしたという瀟洒な雰囲気が漂う
Mimosa
03-6804-6885 住所:東京都港区南青山3-10-40 FIORA南青山2F
営業:18:00~24:00(L.O.23:00)
休日:日曜・祝日よりローカルでシンプルに
研ぎ澄まされる上海料理「潔いほどにシンプルでカッコいい。それでいて、ちゃんと理に適った料理でしみじみと美味しい」そんな味に惚れ込み、新宿の名店【シェフス】の門を叩いた南俊郎シェフ。2年の下積みを経て、料理長としてさらに4年半もの間、腕をふるってきた氏が2016年7月に独立し、オープンしたのがここ【Mimosa】だ。南青山の路地裏という地で、始まった新たな挑戦。家庭的な雰囲気漂う【シェフス】時代とは一線を隠す、オープンキッチンの瀟洒な新店で、その味はどう変わったのだろうか。
「【シェフス】の料理は、言ってみれば文化大革命以前、フランス租界時代の上海料理。足し算で味を重ねるのでなく、素材の持ち味をいかに引き出していくという意味では変わりはありませんが、今自分がつくるのは、それ以降の上海の家庭料理です」
たとえば、『金華ハムと大根のパイ』は、屋台料理として親しまれる上海ではお馴染みの料理だ。餡の千切り大根は揚げることで食感はとろりと柔らかくなり、甘みがグッと増し、そこに金華ハムのコクのある塩味と旨みが染み渡る。バターの代わりにラードを使った生地も軽やかで、風味が実に豊か。現地ではおやつで食べられるほど素朴な料理だが、実に合理的な一品でもある。
家庭料理といえば簡単だが、その味は【シェフス】時代より確実に研ぎ澄まされていることは間違いない。開店から3ヶ月と少し。【Mimosa】のこれからに目が離せそうにない。 -
の弥七 やしち
- 高知県のとある中華料理店の長男として生まれた山本シェフ。皿鉢料理に代表される日本古来の食文化と、家業である中華料理。その両者に囲まれて育ったことが、和と中華の融合を掲げる現在のバックボーンとなっている
- 広東料理の佛跳湯を独自の解釈で椀仕立てに。フカヒレに松茸、銀杏などの季節素材を加えて和の風味を演出
- 季節の添え物を加える盛り付けは、一見、懐石料理と見間違えるほど。その美しさも特徴のひとつだ
- 使用するのは和食器のみ。ただし和に寄り過ぎないように中国の面影が残る骨董の磁器が中心
- 若草色を主体にした内装も、どこか和の趣。和食のメッカ・荒木町という土地を選んだのも同様の理由だ
和のエッセンスを込めた
日本ならではの中華料理「現地の味を再現することは考えていません」そう言い切る山本慎也シェフ。流通事情も食材も気候も違う中国と日本。日本でやるからには、日本の風土と日本人の口に合う味をつくろうというわけだ。だが、動物性の力強い味わいが基本の中華料理と、繊細に素材感を活かす日本料理は、いわば相反するような存在。山本シェフは、素材選びや出汁のバランス、季節感を活かしたプレゼンテーションなどで、その両者を歩み寄らせようと工夫するのだ。
こうして一品のなかに和のエッセンスを込めた中華料理を仕立てる山本シェフ。だが、さらにコース全体の構成にも並々ならぬこだわりがある。たとえば、ある日のコースなら、先付、前菜から刺身が登場、辛味ある料理で変化をつけ、さらにミントティーで爽やかに口直しをした後に、ボリュームあるメインへ。まさに緩急自在。懐石のような構成でありながら、そこにリズムをつけることで、最後まで驚きにあふれたコースとなるのだ。
目指すのは「日本人による、日本人のための中華料理」。悠久の歴史へ敬意を払いつつ、独自の感性で仕上げるこの料理こそ、日本における中華料理のこれからを暗示しているのかもしれない。 -
JASMINE憶江南 いーじゃんなん
- 江南料理の代表格という『獅子頭 大きな肉団子 伝統的な上海醤油煮込み』。角切りの豚バラ肉を練り上げ、卵と水のつなぎだけで柔らかな食感に仕上げている。1個250gの大ボリューム。中華らしく数人でシェアしていただこう
- 『JASMINE名物“よだれ鶏”蒸し鶏の特製香ラー油』。ラー油には本場で買い付けた15種類の香辛料を使う
- 学生時代から中華一筋の鯨井シェフ。日本橋など姉妹店でも結果を残し続けてきた。次なる新境地にも期待
- ワインと紹興酒を軸に約100種が揃うアルコール類。千差万別の組み合わせで江南料理との相性を含味できる
- 一軒家レストランらしい落ち着いた雰囲気。バーカウンター、ベランダ付きの個室などを備え使い勝手もいい
江南料理の奥深さを探求し
伝統の再現から新しきを生む「フレンチや和食を取り入れた中華の人気が高まっていますが、自分が大切にするのは中国の長い歴史の中で研鑽され続けた調理法です」
そう芯のある口調で語る鯨井勇一氏。【JASMINE 広尾本店】の立ち上げから、総料理長である山口祐介氏の右腕として志をともにしてきたシェフである。そんな鯨井氏が得意とするのは揚子江下流、江南地方の郷土料理。“魚米の郷”と呼ばれるほど魚介類や農産物に恵まれ、素材の味を活かした日本人の舌に馴染みやすい料理が多い。それでいて、蓮の葉と土で包んで焼き上げる乞食鶏、豚などの頭を食材とした揚州三頭、リスを模した魚の丸揚げなど、自慢の伝統名菜には風変わりな料理もある。
たとえば、獅子頭をイメージした大きな肉団子。台座にはマッシュポテトを使い、ともに食感はふわりと柔らか。紹興酒とたまり醤油を煮詰めたタレが絶妙に馴染む。また、本店の名物でもあるよだれ鶏は、湯を沸騰させずに総州古白鶏を火入れし、旨みと水分を閉じ込めた。豊かな弾力とほど良い刺激が心地よい。「記憶に残る味に仕上げるため、伝統を再現しながらひと手間やアイデアを加えています」と鯨井氏の言葉にも力が入る。
店は2016年3月にオープンしたばかり。駅から離れた閑静な住宅街にありながら客足が途絶えない。その理由は、奇をてらわず妥協のない創意工夫でゲストをもてなす、温故知新の精神がなせる技なのだ。
※このページのデータは、2016年9月上旬取材時のものです。営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。