杜の都・仙台を訪ねる ヒトサラが選ぶ三ツ星グルメ! | ヒトサラ
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Restaurant TSUJI
- この日のメイン『豚足のマデラ酒煮込み』。美しい盛り付けだが、クラシカル。ピンクペッパーやフレッシュのシャンピニオン、紫キャベツのスプラウトのほか、オカヒジキも添えて、日本でつくるフランス料理の在り方まで示す
- 『本日のお魚料理』。この日は松笠に焼いた甘鯛に、タコやアサリを合わせた。添えたハーブはレモンバーベナ
- オーナーシェフの辻圭一郎氏。「あれこれ考えず、食べて素直に美味しい。そんな料理を日々、目指しています」
- ワインは辻氏も「サラッと飲めて好き」というブルゴーニュ産を厚めにリストアップ。価格もリーズナブル
- 店内はテーブルのほか、カウンターも。アラカルトも用意しており、気軽に、本物のフランス料理が味わえる
王道のフランス料理を仙台に
そう願う、真っ直ぐな魂前菜はスペシャリテのひとつ、野菜のテリーヌ。辻圭一郎オーナーシェフの地元・名取市で、母が手掛ける無農薬の有機野菜を20種類も使い、美しく仕立てる。
「かなりの品目をつくっています。これからの季節はトマト。それからフランボワーズやブルーベリーも」
この日のメインは豚足のマデラ酒煮込み。下茹でして丁寧に骨を抜き取り、冷やし固めたら詰物と一緒に成形。仕上げに香ばしくソテーする。ソースはフォンドヴォーがベース。ジャガイモのピュレが注がれている。
食べれば、どの料理もフランス料理の神髄を感じる正統派の美味しさ。食後感は軽やかだが、ビシッと真っ直ぐ心に響く力強さがある。東京での料理長経験はもちろん、パリの三ツ星レストランでも腕を磨いてきた氏の料理の本質に宿るのは真っ当であろうとする、強い意志。己を捧げて道を志した食文化に対する尊敬の念と、それを仙台の地で実直に表現したいと願う野心に満ちている。だからだろう、一品一品からは揺るぎない情熱が溢れ、食べ手はその想いをしっかり受け止めたくなる。
「けれど、ワイン一杯に料理一品でも大歓迎ですよ」
この柔軟性。「まだまだこれから伸びていく」と感じている仙台のフレンチレストランで、自身の店が入口となって裾野を広げていきたい。そんな責任感も併せ持っているのだ。今宵もワインでフレンチ。そんな日常、素敵じゃないか。「フランス料理をあまりご存知でない方に、こうした流れがスタンダードなんだということを知って頂きたい」。シェフのそうした想いはひと皿ひと皿から溢れ出している。スペシャリテの『20種類の野菜のテリーヌ』もサフラン風味のマヨネーズで味わう実直で王道の味わい。
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うな貴
- 店主の小松精一氏と、3代目の小松大起氏。伝統を守りつつ、本当に美味しい鰻を提供しようと努力も重ねるふたりだ。「鰻はもちろん、お米も炭も、すべて最高級を使っています。どんなに大変でもそこだけは譲れない」と精一氏
- 『お重 極』。特大の鰻を丸々一尾使った今やこの店の顔。食べれば驚くほど香ばしく柔らかく、ご飯も進む
- 『う巻』。フワフワの玉子焼きは甘めで鰻もしっかりとした味。特大サイズで、ほかでは味わえない美味しさ
- 『白焼き』。「焼き切る」技術をダイレクトに味わいたいならコレ。好みで山葵や柚子塩を付けても旨い
- 一軒家の鰻専門店で1階はテーブル席。2階に会食でも使える畳座敷を用意。真の鰻好きが今日も集まる
七厘の炭火を操り、焼き切ること
そうして醸される鰻の美味しさこれほどまでにパリッと香ばしく、しかし、噛めばフワッとジューシーに仕上がった鰻を食べたことがあったろうか。タレは甘さ控えめで何とも上品。店が誇る『極』は特大の鰻が堂々と一尾、鎮座するお重だが、あっという間に平らげてしまう。食後感も驚くほど爽快だ。傍らで微笑みつつ見守っていた店主の小松精一氏は言う。
「スタイルは関東流。蒸してから焼き上げます」
創業は明治5年にまで遡り、当初は関東で営まれていたという。仙台の地に移ってから数えても、およそ半世紀。ずっと七厘の炭火で焼く手法を貫いてきた。
「鰻は焼き切ることが大切。身は厚いですが、骨のザラツキを感じないのは時間をかけて焼くから」
この言葉には、「自分は鰻を専門で扱っている」という小松氏の強い矜持がある。旨い鰻を焼き上げるために──だから、手間はかけるし、原価も惜しまない。「見ればわかる」という極上鰻を仕入れたら、ひと晩、生簀で泳がせ、「元気な状態」にしてから捌く。焼くと身が縮むことを計算し熟練の技で均等に串を打ち、蒸してふっくら仕上げたらいよいよ焼き。その熱源だってウバメガシからつくる本物の紀州備長炭。それ以外は使わないのだ。
「ウチほど企業秘密が多い店もないですよ(笑)」
今度は茶目っ気たっぷりに笑う小松氏。揺るぎない自信は、弛まぬ努力と貫く覚悟があって初めて生まれる。七厘に使う炭はウバメガシを原料とする正真正銘の紀州備長炭。「不思議なもので紀州以外では育たない木です」。この熱源を操るのが技。強火の近火で焼き上げるからこそ、パリッと表面は香ばしく、中はしっとりジューシーに仕上がる。「焼き切る」というテクニックだ。
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弘寿司
- 創意に満ち、何より美しい『握り』の数々。閖上の赤貝は胡瓜の千切りを乗せ、金箔と胡麻を少々。シャコはなんと生。海老より濃厚な甘みが味わえる。右がモウカの星。弾力ある食感も楽しい。山葵代わりに醤油に漬けた生姜の刻み
- 『刺身の盛り合わせ』。この日は約120kgというサイズの本マグロ、コチ、ガゼウニ。すべて石巻で揚がった魚
- 『天然もずく』。クキクキとした食感に感嘆。大根は桂剥きを浅漬けにして、金魚型の南瓜などを巻き込んだ
- L字型のカウンターは7席。朴訥とした畠山氏との会話も愉快。席は、ほかに座敷や小上がりも用意している
- 日本酒も、なかなかお目にかかれない銘柄を中心にラインアップ。基本的にはすべて辛口で、季節限定の生酒も
創業して四半世紀の寿司店で
美しくも独創的美味に出会う僥倖前菜の見事な色彩感覚に思わず吐息が漏れる。感激していると「私に絵心なんてないです(笑)」。店主の畠山貞雄氏が物腰柔らかに答える。この安堵感。すでにこの地で25年の月日を積み重ねてきた。握りに使うネタも揮っている。たとえば、“モウカの星”。これはモウカザメの心臓のことだが、リンゴやブルーベリー、キウイなどを細かくカットしてのせている。おまかせで前菜のほか、握りも20貫ほどが繰り出されるが、そのすべてが美しいのだ。
「昔っから思っていたんですけど、鮨屋が扱う食材にはいろいろな色があるなぁと。これを利用しない手はないと思ったんですね。それは、もう開店した当初から」
江戸前握りの定石も歴史を振り返れば、先人の試行錯誤があったに違いない。氏にはそうした考えがある。
「最初は山葵だってつけなかったんじゃないかな?」
この店で、マグロに行者ニンニクは定番の組み合わせとなっている。
「試してみたらまた違うマグロの甘みが感じられた」
先人に倣い、畠山氏は今も挑戦を続けているのだ。握りながら常に「こっちの方が面白いかも」と余念はない。美味しい鮨のために、シャリはネタに合わせて3種類を使い分けている。手間だって少しも惜しんでいない。加えて、氏には類い稀なるサービス精神もある。
「季節感は表現していきたい。皆さん、忙しくて感じる機会が少ないでしょうから」。知られざる名店とはこういう店を指す。地元の食材を中心に、どうしたらもっと美味しくなるかに心を砕いてつくられる料理はどれも、この美しさ。料理は基本はおまかせのみ。前菜のほか、握りで20貫ぐらいとのことだが、「お腹いっぱいになるまで」出すから〆に、このような『巻物』まで提供することも。
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nacree
- 美的センスに優れた料理に呼応するように設えられた美しい店内は建築家・隈研吾氏の作。【ナクレ】=“光”を意味する店名とも見事にマッチし、明るく、どこか神々しい印象。スペシャルなひとときを演出する
- 『山形産アスパラガス』。3Lという一般には出回らない太いアスパラガスを、淡い味わいのイチジクと合わせた
- 『シマエビと卵』。身は粒マスタードなどと和えて、パクチーを効かせ、上に卵をトッピング。最初の前菜だ
- 『ウニとライム 柚子』。柚子は白い甘皮の部分に圧力をかけて果汁を染み込ませ、細かく叩いて仕上げに成形
- 「かわいい」盛り付けを信条とする緒方稔シェフ。厨房のデザインにもこだわり、スタイリッシュな空間を創出
ストーリーを感じる組み立てで、
五感に訴える、麗しき美味を供す白磁だけでなく、ときには個性的な風合いを醸す、茨城・笠間焼の陶器も駆使して振る舞われる料理は、どれも美しく、たとえるなら、小宇宙。しかし、シェフの緒方稔氏に調理のポイントを尋ねると、「簡単、キレイ、かわいい。仕込みも含めて簡単に調理し、キレイな作業で、かわいく盛り付ける。それが、僕の料理」。どこか飄々とした雰囲気を、湛えているのだ。
この日の3品目は山形産の太く立派なアスパラガスを主役に据えた前菜。強めの塩で1分ほど、茹でただけという緑が何とも鮮やか。オレガノの香りを纏わせている。周囲に散らしたダークブラウンのパウダーは、焦がしたブリオッシュのすり下ろしで、香味はまさにブール・ノワゼット。この日はイチジクと合わせている点がポイントだ。
「アスパラガスに淡い味わいのフルーツを合わせ、一年を通じてご提供できる組み合わせを考えました。持続性が大切ですよね」
素材の本質を伝え、物語を紡ぐようにコースを供する。パリの三ツ星レストランでも経験を重ねた緒方氏だが今、彼が手掛ける料理の着地点は、もしかするとフレンチではないのかもしれない。多様な食感と味、香りが渾然一体となって心が高揚する。その様が何とも痛快。
「食用花やフレッシュハーブは広島・梶谷農園のもの。存在感が強いこの食材は僕の料理に欠かせません」 嬉々として料理をつくる緒方氏。その姿勢には独創的美味が宿っている。美しい料理を盛る皿は、細部に至るまでシェフ自らがリクエストして創り上げた、笠間焼の作家物も多数。「フランスの皿はその日の流れに関わらず、必ず使うようにしていますが、要所要所で笠間焼も必ず使います」。皿からインスピレーションを得て、料理を着想することも。
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French Restaurant Plaisir
- 『七ヶ浜漁港よりガゼウニ、鹿島台デリシャストマトのムース コンソメのアンサンブル』。塩釜に隣接する七ヶ浜で揚がった殻付きのウニを、ジュンサイやフレッシュのグリンピースと合わせた前菜。底にトマトのムースも忍ばせた
- 『蔵王町よりジャパンエックス豚のロースト 桑高農園さんの味来とうもろこしのピュレと』。香るエストラゴン
- 塩釜の魚介、宮城の野菜と真摯に向き合い、調理するオーナーシェフの佐藤克彦氏。店を開いて丸10年を経た
- ワインはフランス産を主にリストアップ。楽しい食事には欠かせない存在。グラスワインも揃っている
- 店内は落ち着いた雰囲気。16席を用意するほか、最大5名まで利用できる個室も。アンティーク調の椅子が個性
地元の食材を積極的に取り入れ、
構築する独自のフランス料理オーナーシェフを務める佐藤克彦氏は宮城・塩釜の出身で在住。だから、扱う魚介は、ほぼ塩釜。実家が市場に隣接しており、血縁には市場関係者も多いため、独自のネットワークで仕入れる鮮魚も少なくないそうだ。ほかにも、この日は「七ヶ浜」や「秋保」、「鹿島台」など、宮城や仙台にある地名がメニューに並んでいた。店に通う途次、「野菜の直売所も極力、立ち寄るようにしている」のだとか。そうして生み出されるフランス料理だ。美しくも、どこか素朴な皿からは地元の恵みに対する感謝の念と、何より、食材が放つ活き活きとした生命力が溢れ出している。
「地元に戻り、店を開いてからちょうど丸10年、ようやく肩の力が抜けてきたというか……震災以降、ここ数年で、使える食材もどんどん増えてきていますからね」
それを成熟というのだろう。東京の名門ホテルで研鑽を積み、シンガポールの日本大使館でも腕を揮った力量にますます磨きがかかり、深みが増した印象。温かいものと冷たいものをあえてひと皿に盛り込むなど、自由闊達でキャリアに由来するスパイス使いも巧み。食べれば、味わいからも食材の個性と魅力が力強く立ち上る。
「こっちでは殻付きのウニを“ガゼウニ”って呼ぶんです。6月ぐらいから初夏まで、出回ります」
料理も、お店そのものも、ゲストと一緒に同じ時を重ねる。レストランには、そうして得られる愉悦もある。『秋保大滝自然農園さんの黒トリュフ風味のじゃがいものピュレと焼きニョッキ、旬の野菜、放し飼い地鶏卵のポーチドエッグと』。立ち上るトリュフの香りが官能的。種々の野菜の彩りは美しく、ミモレットを乗せたパンも添えた。どの料理も地元の食材を駆使する姿勢を貫く。