あの一流料理人が認めるシェフ推しレストラン5選 | ヒトサラ
『シェフ推し』とは?
「おいしい料理をつくる人は、おいしいお店を知っている」。ヒトサラ編集部が、いま注目の料理人、老舗の料理人ほか、
総勢100名の“一流料理人たち”に、「本当は教えたくないおいしいお店」を徹底取材した1冊。
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Restaurant ALADDIN
- 『山鳩のロースト サルミソース』。フランス産の山鳩を1羽そのままローストしてから切り分けた胸肉を使う。ガラをプレス機で抽出した僅か数十mlの血を、ジビエのフォンに加え、得も言われぬ味わいを引き出していく
- スペシャリテの『カリフラワーババロア、ブロッコリーソース キャビアを添えて』。カレー風味がアクセント
- 100種類以上揃うワインはフランス産のみ。地方や品種、価格帯などをまんべんなくセレクトしている
- ランチには明るい陽光が差し込むテーブル席。店内には川﨑シェフが集めた調度品などが飾られる
- オーナーシェフの川﨑誠也氏。この道40年以上になる、日本のフランス料理界を代表する名シェフのひとりだ
ただおいしいだけのために
手間をかけた料理が感嘆を呼ぶ【ALADDIN】の川﨑誠也シェフといって、今さら何を説明しよう。かつて爆発的な人気を誇った料理番組『料理の鉄人』で、鉄人を破ったシェフだからというのではない。ひたすらにおいしさだけを追求し、研ぎ澄まされた料理。そのシェフの真骨頂は、もはや語り尽くされた。それでも改めて言えば、その料理は素っ気ないほどにシンプルだが、抜群に旨いのである。
「料理も嗜好品だからどんなものをつくっても嫌いな人もいる。だったら、自分が食べたいものをつくるだけ。それが何かと言えば、うんと手間をかけた料理です」と川﨑シェフ。ただ、手間といっても、料理を飾り立て、見栄えをよくしようとするものではない。その手間は、実直なおいしさだけのために注がれる。
たとえば、冬のスペシャリテのひとつでもある『山鳩のロースト サルミソース』。これは山鳩を1羽まるごとじっくりと丹念にローストして切り分けた一品。ソースはそのガラをプレスして絞り出した血をフォン・ド・ジビエに加えてつくる。まるで、チョコレートかと見紛うシンプルなソースは、素材を余すことなく使いきったと言わんばかりの奥深きコクで口中を支配する。「肉がメインではなく、ソースと付け合せのドノフィアがメインの料理」とはよく言ったものである。
無論、グランメゾンとは異なる、家庭的で温かなもてなしも【ALADDIN】の魅力。シンプルにおいしい料理にありつきたいと思った時、これほど最適なフレンチも他にはない。私も以前、川﨑シェフの元で修業していました。クラシックを踏まえつつ、時代が求めているものへ寄り添う。それでいて、シェフ自身が本当に食べたいと思えるものをつくり続ける姿勢。非常にフランス料理への愛が強い方です。
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青山 いち太
- 「お客様の反応がダイレクトに伝わる」というカウンターは、佐藤氏の独立にあたっての必須条件のひとつ。ヒノキの一枚板をL字型に分割し、ゲストには居心地よく、料理人には向上の場となる空間を生み出している
- 朗らかで凛とした職人気質も併せ持ち、妥協を許さぬ誇りを秘める。佐藤氏の人柄に惹かれる常連客も多い
- 茨城の産地から届く蕎麦の実を石臼で挽き、佐藤氏自ら手打ち。香り高い十割蕎麦はコースの〆に登場
- 初冬の楽しみ香箱蟹。身はほぐさずに食感と風味を際立たせる。卵一粒まで絡むようとろみをつけた餡を添えた
- 自ら市場に赴き食材を仕入れ。松葉ガニなら「上腕部の身が詰まっている」など、幾多の項目を厳しくチェック
香ばしく、かつ素材感が際立つ
焼き物の完成度に、店の実力を知るいま東京の和食シーンにおいて、頻繁にその名が取り沙汰される『青山 いち太』。曰く、大将の人柄が魅力的、落ち着いた店内が心地良い、都心にあって隠れ家的なロケーションに惹かれる……。さまざまな魅力が語られた後、会話はこう締めくくられる。「とにかく、旨い」と。
大将の佐藤太一氏は北海道出身。札幌のホテルなどで腕を磨いた後、縁のあった新宿の割烹【大木戸 矢部】の門を叩く。無論、修業先での経験は現在の料理の礎。とくにコースの〆に登場する手打ち蕎麦は、食後に満足感と爽やかな余韻を残す。これは【矢部】から受け継いだ貴重な財産に他ならないだろう。しかし、そればかりではない。独立4年目を迎え確立された個性、磨き抜かれた技もまた、食通を惹きつけてやまぬ理由なのだ。
そんな佐藤氏の技は、やはりカウンターで輝く。たとえば、カウンターの中に焼き場が設えられている。これはつまり、しばしお客に背を向けることになろうと、そこで自らの手で焼き上げ、自らの目でピークを判断する焼き物を提供したいという思いの象徴だ。あるいは調理前にまずゲストに披露し、自ら解説する食材、にわかに空気が張りつめる真剣勝負の包丁。味だけでなく五感で魅せる技に、この店の実力を改めて感じる。ご主人・佐藤太一さんの人柄が醸し出すいい空気感が、店全体を包んでいて、凄くリラックスして食事ができます。〆は決まって十割の手打ち蕎麦。温冷どちらでもお好みで頼めて、さすが、といった味わいです。
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中國菜・老四川 飄香
- シェフの井桁良樹氏は、千葉県内のお店で修業したのち、本場・四川と上海へ。当時はまだ中国に渡り修業をする人が少なく、知り合いの中国人のツテを辿り現地へ渡ったそう。そんな四川への熱い思いが、作り出す料理には表れている
- 『冠地どりのさっぱりウコンソース』は、青山椒のオイル、赤・青とうがらしで爽やかに仕上げた逸品
- 楊貴妃が愛したワイン、手羽元をひと皿に。『蝦夷アワビとおおいた冠地どりの手羽先の赤ワイン煮込み』
- 「古き良き中国の雰囲気を体験してほしい」と内装にもこだわり、四川や北京の家具や調度品を揃えている
- ワインはオーガニックを中心にスパイスに合うもの、紹興酒は年代の異なる多彩なラインナップ
本場で出合った感動を日本へ
香りで誘う四川料理の世界【飄香】が美食家はもちろん、名だたるシェフからも支持されているのは、その味はもとより、オーナーシェフ・井桁良樹氏の四川料理に対する実直な姿勢にある。というのも、井桁氏は年に2~4回は四川に訪れては、その時のトレンドやまだ見ぬ四川料理を探求。時には車を5時間も走らせ田舎町まで行き、その地に根付いた料理を食し、その文化を学ぶそう。
「まだ、日本で知られていない四川料理はたくさんあります。自分が四川で出合い感動したものをお客さまに提供し、同じように感じてほしい」と井桁氏。
そのためには「日本と比べ圧倒的に香りが良い」という、四川で買い付けた香辛料が欠かせない。
「四川にはとても大きな香辛料や漢方のマーケットがあって、そこで実際に目で見て、香りを嗅いで選んでいます。それだけ四川料理にとって重要。山椒の良いものは、現地の人同士でも取り合いになるほどなんですよ」
井桁氏自ら厳選した約30種の香辛料は、刺激的なだけでなく、食材に寄り添い引き立たせるものも。伝統的な四川料理を日本人のフィルターを通し、芳醇な香辛料をまとわせて表現する。そんな井桁氏の料理の数々に、四川料理の奥深さを垣間見ることができる。井桁良樹シェフは本当に珍しいほど謙虚で、その人柄が好きですね。また、定期的に四川に足を運んでいて、日本にはまだない四川の味を追求している姿勢もすごく良いと思います。僕が気に入っているメニューは、北京ダックならぬ『四川ダック』。井桁シェフ自ら四川で買い付けてきた香辛料が利いていておいしいですよ。
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スブリム
- 『北海道 十勝産ハーブ牛』。ごくわずかな塩で漬けて旨みを凝縮した十勝ハーブ牛は、生肉の食感。ヨーグルトでつくった自家製の“蘇”、鰹節風味のマヨネーズ、マスタード、パセリなど多様な香味を合わせ、タルタルを再構築
- 2017年8月、現在地へ移転。オープキッチンの圧倒的開放感。天然素材を多用した空間も心地良い
- 『静岡県長谷川農園のマッシュルーム』。生の魅力を伝えるスペシャリテ。スープは発酵マッシュルームでつくる
- 『北海道 北見産35日熟成の蝦夷鹿』。ドライエイジングにかけた鹿を低温ロースト。付け合わせは紫ニンジン
- 柔和な笑顔も魅力的な加藤順一シェフ。フランス料理を土台にして北欧の先進性、日本食材の素晴らしさを発信
スブリム
03-5570-9888 住所:東京都港区東麻布3-3-9 アネックス麻布十番1F
営業:12:00~13:00(L.O.)/18:00~20:00(L.O.)
休日:月曜華麗なキャリアのすべてを集約し、
新境地を切り拓く、若きシェフの挑戦この日は前菜に、北海道十勝産ハーブ牛と、静岡県長谷川農園のマッシュルーム。そして、メインで北海道北見産35日熟成の蝦夷鹿。驚くべきは、どの料理も主役が明確なところ。盛り付けは美しく、それだけで印象深く映るが、「今、何を食べているか」をハッキリ自覚しながら味わうからこそ、食べ終えた後も、美味しい記憶はしっかりと心に刻まれ、何とも、幸せな気分になる。
「前菜は北欧のように美しく、デザイン的な要素を意識して。メインはしっかりしたポーションで、フレンチと同等の“食べた感”が出せるよう、心掛けています」
そう語る加藤順一シェフは、【タテル・ヨシノ】でフレンチの基礎を、パリ【アストランス】で最先端を学び、さらにコペンハーゲン【AOC】で現代化が急速に進む北欧の今を体得してきた人物。つまり、フレンチ×北欧の最新スタイルを日本の食材で表現する。それが加藤シェフの料理。ハーブ牛はタルタルで登場したが、酸味や苦味といった味だけでなく、食感や香りの違いまで楽しめて愉快。ひと皿に集約された多様性も見事だ。
「マッシュルームに合わせた半熟玉子は長谷川農園さんの近くにある養鶏場から朝採れを仕入れています。蝦夷鹿に添えた紫ニンジンも、北見の近くで採れたもの」
静岡、北海道という産地のテロワールまで盛り込むシェフの姿勢も痛快。日本のフレンチはここまで来た。北欧とフランス。ふたつの食文化がひとつの料理として、見事に融合しています。若いスタッフたちの力で、それらをもっと掘り下げて「進化」と「深化」、両方をさらに突き詰めていって欲しい。今後に大きな可能性を感じる一軒です。
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ラ バリック トウキョウ
- 1940年代築の日本家屋で、欄間や床の間、雪見障子などがそのままに残る。通りからビルの脇を抜けた先に玄関が待ち受けるアプローチもドラマチック
- 6~7時間かけて火を入れたカリフラワーをパウダーにしてソースへ戻した『カリフラワーのスパゲッティ』
- 『天然ブリのクルード 聖護院蕪のソース』。ブリは軽く昆布締めに。上にはキャビアと蕪の葉のピクルス
- オーナーソムリエの坂田氏。イタリア・ピエモンテ州にあった修業先のリストランテから名をいただき店名に冠した
- 【ラ バリック トウキョウ】といえばワインも魅力。ボトルはもちろん、グラスワインも常時20~30種と豊富
料理、空間、サービス…
10年を経て深化した名店の実力店名に冠したバリックとは、ワインを熟成するのに用いる小さな樽のこと。無論、そこには「ワインのように時間をかけて熟成していくレストランでありたい」との思いが込められている。2007年のオープンから丸10年が経ち、まさに【ラ バリック トウキョウ】は円熟の時を迎えている。
この店の舞台となるのは、オーナーソムリエ・坂田真一郎氏の生家。リストランテでありながらどこか温かみを感じられるのは、何も築約70年の日本建築が醸し出す雰囲気だけのせいではない。「友人を自宅に招くようにゲストをもてなす」という開店当初からブレることのないホスピタリティ。料理の仕込みと同様、サービスにも徹底した下準備をすることで、寛ぎのひとときを演出するのだ。ゲストの所作ひとつに目を光らせ、何を欲しているのか言葉にせずともスマートに応える。だから、ゲストは自らの楽しむことだけに集中すればいい。
シェフは15年以上前、【アカーチェ】での修業時代に坂田氏と出会い、当時から相思相愛の仲である伊藤延吉氏。「何を食べたか分かる」素材感を最大限に引き出すイタリアンを標榜する。ソースに血を混ぜた鴨のロースト然り、カリフラワーをピューレにし、ローストをかけてパウダーにしてからソースへと戻すパスタ然り。見た目がシンプルだからこそ、仕込みに手間と時間をかけて、驚くほどのおいしさでゲストの心に刻み込む。
【ラ バリック トウキョウ】を訪れ、改めて思う。リストランテとは総合力が求められる場なのだと。美しく改装された日本家屋、オーナーソムリエの選ぶほかでは見られない品揃えの豊富なワイン、料理の総合力が素晴らしい正統派のイタリアンです。