次世代を担う 10年後のスターシェフに迫る | ヒトサラ
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L’orgueil
- カウンターは2席のみ。しかし、そこはシェフの息遣いさえも聞こえそうな距離感の、まさに特等席。キッチンに使われることの多い大理石を、カウンターの素材にすることで、厨房と客席の雰囲気を融合させた
- フォアグラの前菜。美しいが、装飾的に盛り付けるような、料理として不必要な食材は一切使わない
- この日の魚のメインは北海道産メヌケ。その出汁とシャンパンで仕立てた酸のあるソースを合わせた
- シャンパンとシャンパーニュ地方のスティルワインだけに特化したラインナップ。ペアリングが楽しい
- 客席はシェフの目が届く席数に留めた12席。全席シェフズテーブルがコンセプトだ
オープン10ヶ月で一ツ星を獲得!
加瀬イズムが巻き起こす新風25歳で日本を飛び出し、フランスでは三ツ星レストランなどで修業、帰国後はかの【カンテサンス】で岸田周三氏に師事。そして、2016年2月に【L’orgueil】をオープンすると、その10ヶ月後にはミシュランの一ツ星を獲得する快挙を成し遂げた。加瀬史也、33歳。今、一番脂がのっている若手注目のシェフである。
しかし、その経歴だけで耳目を集めるのではない。「シャンパン×フレンチ」というコンセプトで確固たるキャラクターを打ち出し、キッチンと客席に垣根のないボーダーレスな空間もまた店の評価を高める要因。そして、何より料理自体が素晴らしい。加瀬氏は「自分の料理はバターや油を多用した重いフレンチではありません」と断言。その上で、食材の組み合わせで個を際立たせつつも親和性を生み、さらにはコース構成と流れで料理に抑揚をつけていく。
たとえば、この日のフォアグラの前菜には、イタリア産ピゼリという豆を添え、春らしさを演出。そこへ相性の良いアーモンド風味のクロッカンで甘みを加え、八朔の酸味をプラスして味の輪郭を浮き立たせる。さらに、花穂紫蘇をピゼリの残り香と結びつかせ……。といった具合に、ひと皿の構成力がずば抜けている。
聞けば、客席と厨房の垣根を取っ払った店内も、ゲストの食べるスピードなどを見極め、料理をすぐさま届けられることを意識した結果だとか。
「料理が自分の手から離れてから、その料理が美味しくなることは絶対にありませんから」
そう飄々と言ってのける加瀬氏。いやはや、今から10年後が楽しみなシェフである。料理単体の素晴らしさはもちろん、そのコンセプトもユニーク。お酒は加瀬氏自身が好きだというシャンパンと、シャンパーニュ地方のいくつかのワインだけに特化。「シャンパンというと食前酒の軽いイメージですが、実は糖質もしっかりあるお酒で、個性も本当に幅広い」と、ここではグラスの形状や温度帯など、手を変え品を変え、様々な一杯を料理に合わせて提案してくれる。
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鮨 心白
- 店主の石田大樹氏。鮨の要となる米や魚、海苔などの生産地を自ら訪ねてセレクトする行動派。また、つまみ用の器や酒器ひとつひとつにもこだわり、こちらも作家を訪ねて選んでいる。主に同年代の作家作品を中心に取り揃えている
- 小田原産の『春子鯛』。4日ほど寝かせたのちに皮は酢締め、身は昆布締めで仕上げて握る
- 40日ほど熟成させた『カジキ』は提供前に醤油に漬け、即席のヅケに。濃厚な旨みが引き出された逸品
- 宮城県東松山産の牡蠣をシンプルに蒸し上げた。この牡蠣のためにつくられた日本酒とともにいただく
- 店内はカウンター席のみで、一斉スタートのため1日最大10名まで。長丁場だがゆっくりと堪能できる
鮨屋の概念を超えて追い求める
“美味しい”よりも“楽しい”半年先まで予約が埋まる人気の鮨店【鮨 心白】。看板に“鮨”と掲げているものの、単純なそれとは、ひと味もふた味も違う。というのも、唯一のメニューである、おまかせは、握りにありつくまでに約25品ものつまみが出てくる。それも、いわゆる鮨屋のつまみとは一線を画すものばかりで、旬の海産物はもとより、野菜、時にはジビエを扱うことも。そんなつまみの数々を終えると、ようやく握りにありつけるという流れ。そのため、入店から退店まで短くても4時間、長い人になると6、7時間もかかるという。
「出したい料理を出しているうちに品数が多くなっていきました。美味しいだけでなく、全体の満足度を上げたい。『楽しかった』という感想を持ってほしいんです。鮨はそのための”武器“でしかないんです」と店主の石田大樹氏。そうは言うものの、やはりゲストの目当ては握りだ。魚はあえて築地で買わず、神経締めされた魚を産地直送で入荷。熟成させて、ネタによって2種ずつ用意されているシャリと海苔に合わせて握る。そんな丁寧な仕事とこだわりが詰まった鮨は、とにかく旨い。数々のつまみを食べ、豊富な日本酒を堪能した後でも、一貫いただけば、店の主役として絶対的な存在であることに改めて気付かされる。
つまみが20種以上に、握りが約10貫。食べるこちらも体力がいるが、基本的にひとりで切り盛りしている石田氏はそれ以上の体力が必要だ。石田氏が情熱でつくりあげる“美味しい”“よりも”楽しい”ひとときを、時を忘れて噛みしめたい。【鮨 心白】の魅力は、料理や酒だけではない。訪れた人たちが口を揃えて評価するのが、店主・石田氏の立ち振る舞いの素晴らしさ。10人に数々の料理を提供しながら、時にはタブレット端末で映像を見せながら産地や生産者の思いを伝え、客との会話も楽しむ。鮨が提供される頃には客同士にも一体感が生まれるほどだ。
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Takumi
- この日、肉のメインは、仔羊のロースのロティ。ジャガイモのピューレは、ヤギの乳からつくられるシェーブルチーズを混ぜることで羊との相性を実現。ハニーマスタードで和えたキノアという穀物の付け合せとの親和性も高い
- スペシャリテのひとつであるデザートは11種の盛り合わせ。テーマは「ケーキ屋さんで大人買い」だ
- 料理が際立つよう、モノトーンの色調で統一された店内。ライトは自然光に近い光源を使っている
- ワインはシャンパーニュとブルゴーニュを中心に、ソムリエがセレクトした約200種をラインナップ
- マルセイユにある三ツ星【Le Petit Nice】などの名店を渡り歩いたオーナーシェフの大槻卓伺氏
斬新なプレゼンで記憶に刻む
食材の組み合わせによる妙味導かれるようにシェフになった。そう言えば言い過ぎか。否、大槻卓伺氏は、まさにシェフになるべくしてなった人物だ。何しろ、物心ついたときから料理人を志し、小学3年生時には自宅のキッチンに立っていた。中学生になると料理への愛はさらに深まり、週末の休みには2日がかりで料理を仕込むことも。そんな料理を愛する青年は、大学では将来の独立のために経営学を修業。卒業後に渡仏し、およそ3年間で5つの星つきレストランにて研鑽を積んだ。
そして、28歳という若さで開いた店がこの【Takumi】である。大槻氏は自身の店を「ここはデートや接待で使う店ではありません。自分がつくる料理を味わうためだけに来ていだだくレストラン」と言い切る。そのために打ち出した自らの色が、「食材の組み合わせの妙」を楽しませる料理だ。自身を「ロジカルな人間」という大槻氏は、伝統料理が今の時代にも愛され続ける理由、既成概念などを理論的かつ実践的に解釈し、それを自身の感性と紐付け、新たな「食材の組み合わせの妙」を導き出す。
ただし、料理を供して「後は食べ手の感性におまかせ」とはならないのがTakumi流。それを裏付けるように、ここでは料理とともにシェフの思いを認めた料理の説明シートと、瓶詰めにされた食材が供される。たとえば、前菜として登場したアスパラのスープ。添えられたフォアグラや、リードボーのフライ、ラルドで包んだ仔牛肉などの付け合わせをスープとともに味わうと、その「組み合わせ」になるほどと膝を打つ。そして、ゲストの頭に「【Takumi】の料理はこうだ」と刻み込むのである。ただ、味わって感じるだけでなく、つくり手の考えをより正確に伝えるために、ひと皿ずつに必ず差し出されるのが、料理の解説カード。「なぜこの食材と食材を組み合わせたのか」など、料理のディテール、シェフの狙いなどが書かれている。実際にその料理に使われる食材を入れた小瓶も添えることで、さらなる分かりやすさを追求した。
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割烹 伊勢 すえよし
- 西麻布にいながら伊勢に訪れた気分にひたれるよう、料理以外にも多彩な趣向を凝らす田中氏。伊勢型紙の壁飾り、萬古焼や伊賀焼の器、店内に焚くお香までこだわり抜き、地元の“らしさ”を演出している
- 尾頭付きの『伊勢天然鯛飯』。海老などを餌に育った極上鯛の風味が損なわれぬよう炊き上がった瞬間に提供
- 『鹿肉ローストの炙り紅葉』は生きたまま血抜きしたジビエを使用。三重が誇る一流の猟師のこだわりを活かす
- 食感、風味、視覚で三重の四季を巧みに表現。山椒の木の芽味噌、ビワを模した卵黄など大胆かつ繊細な構成
- 取り扱う地酒はすべて三重のもの。蔵元をめぐり地元の食材に最も適した味わいを選び抜いたという
グローバルな視点で展開する
世界に誇るKAISEKIの文化「懐石料理って敷居が高そう」と感じている方こそ【伊勢 すえよし】へ訪れてほしい。オープンから2年足らずで交通局などが主催する人気スポットランキング「TOKYO100」のグルメ部門にて第1位を獲得したその訳は、世界的な視野を持った“おもてなし精神”にある。
店主の田中佑樹氏はまだ20代ながら実家の日本料理店で4歳から手伝いをしていたという生粋の料理人。老舗料亭【菊乃井】にてさらに技術を習得した後、見聞を広げるため世界一周の旅に出た。ペルー、アルゼンチン、イタリア、トルコなど、厨房だけでも9カ国を渡り歩き、その土地ごとの食材と食文化の成り立ちに感銘を受けたという。帰国後は地元である伊勢を中心とした三重県の生産者のもとをめぐり、その恵みをいかに表現するかに思慮を巡らせ「生産者と消費者の心をつなぐ」ことをテーマに店をオープン。奇をてらわず、伝統を守りながら、国内外を問わず懐石料理に馴染みのないゲストでも安心して食事を楽しみ、知識を深めることができる環境とコース展開を整え、一躍大きな注目を集める。
「さまざまな素晴らしい日本食のお店がありますが、その中で“世界に対してオープンであること”を強みとし、自分なりの立ち位置を示していきたいです」
“KAISEKI”を、そして“MIE”や“ISE”の素晴らしさを世に伝え広めることを目標に、次なるステージを目指し、旅を終えてもなお田中氏の歩みは続く。女将である奥さまが制作した冊子には田中氏がこれまでに巡ってきた生産者との交流を記録。それらを糸口にして、三重の食材や懐石料理の魅力を紹介する。英語の接客ができるだけでなく、魚介出汁を口にできないベジタリアンやハラール食品しか食べることのできないムスリムなどゲストの主義思想を考慮した献立も開発し、海外ゲストが喜ぶ切り口を提案。