いま気になる街 目黒の和洋5名店 | ヒトサラ
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リナシメント
- 『インサラティッシマ リナシメント』。サラダを意味するイタリア語「インサラータ」を最上級化した造語。この日は稚鮎のコンフィ、新生姜のアニスなど、初夏から夏にかけての食材が数多く登場。1ヶ月に20品目以上が変わる
- 『タヤリン トリュフがけ』。北イタリアのピエモンテのなかでも一部の地域でしかつくられない手打ちパスタ
- 店内の奥にあるテーブル席。多様なシーンに対応する使い勝手のよさは、この店の大きな魅力のひとつ
- 120種ほどを取り揃えるワインはすべてイタリア産。北イタリアの繊細な味わいのワインが多い
- 店に入って右手にあるのがシェフズカウンター。シェフの息遣いまで聞こえそうな距離感で調理が行われる
“圧倒的旬”を届けるイタリアン
お客さま本位なもてなしが心を掴む「店をつくろうとしたとき考えたのが『自分ならどんな店にリピートして足を運ぶか?』ということでした」
そう話す【リナシメント】のオーナー・三浦幸一氏の行き着いた答えが、お客さま第一の視点に立ち続けることだった。価格の異なる3本のコースを用意し、さらには気軽に楽しめるようアラカルトも揃える。店内に入ると、右手に半個室とシェフズカウンターがあり、奥へと進めばテーブル席のほか完全個室まで設けられている。一見あらゆるシチュエーションに応えられる店だが、それこそがこの道20年になる三浦氏のサービスマンとしてのこだわりだった。
「立地も駅から少し離れた場所にしたのは、お店に向かう際のドキドキ感と期待感を楽しんでもらいたかったため。それだけでなく、お店を後にした余韻を感じてもらえる距離がほしかったこともあります」
料理のコンセプトは「圧倒的な旬を届けること」。店のシグネチャーに『インサラティッシマ リナシメント』という、ひと皿に30種の前菜が少しずつ盛られた一品があるが、実はオープン当初は20種だった。それがお客さまにどうやったら喜んでもらえるかを考えた結果、自然と現在の品数に定着したのだという。
「この季節だけでも稚鮎のコンフィやじゅんさいのテリーヌ、アジのマリネなど……。とにかく味わってほしい旬がいっぱいあります」
コースには必ず組み込まれる、手間のかかる料理だがアラカルトでの注文も可。このひと皿を注文して美味なるワインとともに気軽に楽しむ。嗚呼、どこまでもお客さま本位の店なのだろうとゲストは痛感するはずだ。「自分たちは奇をてらった料理を出せるわけではないので」と、オーナーの三浦氏は笑う。その一方で、お客さまを楽しませる、喜ばせることには余念がない。料理はオーナーがまかないでしっかりと食べて味をブラッシュアップするほか、サービスマンだけでなく、シェフ自ら料理をテーブルへと運び、お客さまの声を拾い上げることもしばしば。
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鳥かど
- 白い作務衣姿にねじり鉢巻がよく似合う店主の小野田氏が焼き台に立つ。なお、焼き鳥は【鳥しき】同様、基本おまかせのみ。ゲストがお腹いっぱいになったら、その旨を告げるストップ申告制を採用している
- 確かな旨みがありながらもクセがなく柔らかな伊達鶏を使用。『かしわ』は腿肉のこと。タレで焼き上げる
- 人気の『ハツ』は、丸ごと塩で焼き上げるのが鳥かど流。弾力のある歯応えとジューシーさが醍醐味だ
- 熱源は火力の強い紀州ウバメガシの備長炭。その炭に立ち向かい、串をこまめに返すなど焼き方は繊細
- 『親子丼』は「出汁を卵に含ませつつ閉じるのがコツ」。兵庫県産の卵を使用。自家製鳥スープが付く
焼き鳥界のサラブレッドである大将が
名店譲りの技と味を継承目黒で予約が取れない焼き鳥店といえば、【鳥しき】がおなじみ。その姉妹店として2017年2月、同じ目黒にオープンしたのがここ【鳥かど】だ。路地中の、看板もない隠れ家的シチュエーションながら、早くも人気沸騰。こちらも連日予約で満席の盛況ぶりだ。
陣頭指揮に立ち、焼きを担当するのは小野田幸平氏、29歳。年は若いが、実家は老舗の焼き鳥店というサラブレッド。「子供の頃から焼き鳥は主食として食べてきた」という小野田氏だけに、あるべき焼き鳥の味は潜在的に舌が覚えているのだろう。理想とするのは、勢いのある焼き鳥だ。
「変わり種よりも『かしわ』や『つくね』といったベーシックな串を、どれだけ完璧に焼くかが難しい。腕の見せ所ですね」と小野田氏。そのためには、炭の組み方や串に鶏をどう打つか、焼き以前の準備が大切。それ次第で焼き上がりの味が大幅に変わってくるからだ。心地よい弾力の中、肉汁がほとばしる『かしわ』、生から焼きあげる『つくね』は、ほんのり中心をレアに焼き上げたジューシー感と口中でホロリとほどける食感が後を引く。希少部位などを含め、串は常時20本余り。食べ手がストップをかけるまで次々と串が登場するおまかせコースのほか、こちらでは一品料理も楽しみのひとつ。半熟トロトロの卵の閉じ加減かたまらない、〆の『親子丼』も秀逸だ。素っ気ない鉄の扉を開ければ、そこは無機質な空間。本店とはうって変わった店内は、黒い漆喰の壁に白木のカウンターのコントラストがモダンな雰囲気。家紋入りの大胆な暖簾は、神社や能舞台をイメージしたものだとか。従来の焼き鳥店とはひと味違うインテリアも魅力だ。予約をすれば、テイクアウト用にお弁当も用意してくれる。
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TRATTORIA DELLA LANTERNA MAGICA
- エントランスを抜けるとバーカウンターがあり、熱気あふれる厨房の脇を抜けると、テーブル席へとたどり着く。アーチ状の楣で仕切られるように、奥へと続いており、入り口からは想像できないほど中は広々としている
- 『前菜の盛り合わせ』は、おまかせの10種。入り口の近くのショーケースから好みの料理もチョイスできる
- 『牛モモのタリアータ』。炭火で焼き、味付けは塩とコショウのみ。パルミジャーノ・レッジャーノをかけて
- シェフの阿部之彦氏。この店でシンプルに現地の味を追求して、14年。今もその信念が揺るがぬ料理人だ
- およそ100種揃うワインはすべてイタリア産。なかでも土着品種のワインには力を注いでいる
味わい、雰囲気、おもてなし…
これぞ偽りなき本場のトラットリア以前からずっとこの場所にあったような雰囲気は、2005年のオープン当時からすでに持ち合わせていたものの、現在の店の安定感たるやもはや老舗のようにどっしりとしている。その理由は、まず現地のトラットリアを思わせる店の雰囲気にある。パステルイエローで統一されたクロスが店内に温かみをもたらし、そこにアーチ状の煉瓦づくりの楣(まぐさ)といった意匠、現地で買い付けた絵画や調度品が加わり、本場さながらの空気感をつくりあげている。カメリエーレがテーブルに運んでくれる黒板メニューもそう。すべてイタリア語で記されるかわりに、ひとつひとつ丁寧に料理の説明をしてくれるからゲストをその気にさせるのである。そして、そこにイタリアン然とした料理が加わるからいいのだ。
シェフはオープン当初より厨房を任される阿部之彦氏。オープンより14年という歳月が経つが、その志は昔から変わっていない。
「目指すは現地の日常にある料理。年に一度、必ずスタッフとともにイタリアへ行くのも、その日常を再確認するため。料理が自分の創作にならないようにしたい」と笑う。
豊富に揃う前菜も、機械を使わず手ごねでつくる自家製のパスタも、噛むほどに旨みがあふれるビステッカもすべてがシンプルにして美味。豊富なイタリアワインはもちろん、食後にはワゴンで運ばれてくるグラッパも楽しみのひとつだ。現地のトラットリアのような雰囲気は、料理や空間だけではない。そのサービスも同様で、食後にはカメリエーレがグラッパをのせた木製のワゴンとともに各テーブルを訪ねてまわる。グラッパはタイプもさまざまな60種ほどをラインナップ。ワゴン以外に冷蔵庫や冷凍庫にもストックがあるので、気軽に訪ねてほしい。
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鮨りんだ
- 店主の河野氏は愛媛県の出身。高校時代は球児だったが、卒業後は寿司屋の道へ。そのフランクな性格で、美味しさはもちろんカウンター寿司の楽しさを届ける職人だ。「営業中はひとつも気を抜けない」と、ゲストとの声を聞き逃さない
- 『中トロ』。舌触りのよさを引き出すため、薄めに切った切り身を三枚漬けにして提供する
- 『車海老』。この日は長崎県産。わさびの代わりにカニ味噌を忍ばせ、サッと煮きりを塗って出す
- こちらは河野氏の実家である果樹園で搾られるみかんジュース。【鮨りんだ】ではデザート代わりに供される
- カウンターは17席。入店するゲストを自分で出迎えたいとの思いから、河野氏の持ち場は入り口側
変化球の握りにもてなしは直球型
カウンター寿司の醍醐味ここにアリ!カウンター寿司と聞いて身構えてしまう人は、この店へ足を運ぶといい。決して王道のカウンター寿司ではないかもしれないが、これほど職人と対峙することが楽しいと思える店は他にはないからだ。
「こんな場所にあるから、お客さんは美味しいだけではまた来てくれない。自分が追求したいのは『楽しかった』と言ってもらえる店」
そのために店主の河野勇太氏は全身全霊でつけ場に立ち向かう。苦手、食べられない魚だけでなく、ゲストには必ず好きな魚を聞く。あるいはお酒が飲めないと見るや、愛媛にある実家の果樹園で搾られたみかんジュースを勧める。同じタイミングで入ってきた隣同士の客でも、同じものが出ることはない。つまり、客ごとに出てくるつまみも握りもまったく異なる、一期一会の寿司が楽しめる。「営業中は、一瞬たりとも緊張の糸を切らすことができない」と河野氏は語気を強める一方で、懐に入り込むようなフランクで気の利いたもてなしに、いつのまにか初めて訪れた客も心を許してしまうのである。
それでいて寿司は当然のように旨いから、文句のつけようがない。『中トロ』は味わいの広がり方、食感の滑らかさを良くするためにやや薄めに切り、三枚漬けに。『蒸し鮑』も肝が好みでない人のことを考えてソースにせず、蒸した肝を付け合わせる。正統派の江戸前に変化球を交えてサプライズ的な握りを出す手法も、すべては客目線に立ったうえで辿り着いたスタイル。心解きほぐすカウンター寿司は実に痛快だ。楽しいだけでは客がつかないのは当然。【鮨りんだ】にはしっかりと美味しいが伴っているから“楽しい”のであって、客が引きも切らないのだ。ネタは、築地から仕入れるほか、店主の出身地である愛媛をはじめ岩手や三重などからも直送。そんなネタに確かな江戸前の仕事を施し、少しのサプライズやアイデアを持って鮨を握る。そんな緩急が抜群に心地いい。
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RISTORANTE CANOVIANO
- 原宿【バスタパスタ】の開業メンバーとして活躍後、渡伊。3年間の修行後、【ビコロッソ】のシェフを務め、1999年に代官山に【RISTORANTE CANOVIANO】をオープン
- 『北海道産縞海老とカラスミの冷製カッペリーニ』。昼と夜、どのコースにも必ず登場するスペシャリテだ
- 『アオリイカのセミクルード 金時草のエキス』は、夜のコースからの前菜。さっと炙ったイカが香ばしい
- ビオを含め、約400種余りのイタリア全州のワインを揃えている。グラスワインも豊富でペアリングコースも用意
- フィレンツェをイメージした店内は、80席。フラットな床などバリアフリー対応もクリア。奥には個室もある
代官山のあの名イタリアンが
目黒の地で新たな挑戦へイタリアンでありながら、ニンニクや唐辛子をのほか、バターや生クリームなどの動物性脂肪も極力排除。その一方で、京野菜をいち早くイタリアンに取り入れるなど、“自然派イタリアン”と呼ばれるヘルシー志向のイタリア料理で一世を風靡したシェフの植竹隆政氏。スペシャリテのひとつである『北海道産縞海老とカラスミの冷製カッペリーニ』をはじめ、素材を生かした繊細な味わいと気品に満ちた盛り付けの美しさは、1999年のオープンから20年近くを経た現在でも、少しも色褪せることなく、数多くの美食家たちの舌を魅了し続けている。そして、昨年の5月、老朽化した代官山の店を閉め、目黒の地に移転。「ホテル雅叙園東京」の敷地内、はなれのように隣接する一軒家のリストランテとしてリニューアルオープンした。
ホテルの入り口から、リストランテへと続くアプローチは、非日常の世界へと誘うには充分。明るく開放感がありながらも、どこかシックな趣の店内は、フィレンツェをイメージしたものだとか。豊かな緑に囲まれ、庭にテラスや池も設えられた空間は、どこか異国のリゾート地に来たかのような気分にさせてくれるはず。「これからは、在来品種の野菜についてももっと勉強して料理に積極的に取り入れていきたいと思っています」と、植竹氏。これまでにも増して、美味しくヘルシーなイタリアンに期待したい。2階には、天井が高くシンプルながらもエレガントな雰囲気のチャペルも併設。挙式後は、1階のダイニングがそのまま披露宴会場に。厨房から届くつくりたての料理は、もちろん植竹氏渾身のメニューばかり。最大で80席と、少人数ならではの手作り感溢れるアットホームな結婚式を演出してくれる。