-
早苗饗 −SANABURI−
南魚沼の四季が育んだ、
豊かな実りを二十四節気にのせて新潟県中越地方の山間にある、大沢山温泉郷。壮大な自然の中に佇む、築150年の古民家を改装した宿「里山十帖」のメインダイニングが【早苗饗】で、その主役は里山の恵みたる地元・南魚沼の野菜たちだ。たとえば夏、二十四節気のひとつ・大暑の候の前後には、日の光を燦々と浴びたナスやトマト、キュウリなどが御膳を彩る。
「大地が育む食材の力を、たっぷりと感じていただきたいんです。農家さんの思いも感じて欲しいから、シンプルな調理を心がけています」
そう話すのは、料理長の桑木野恵子氏。南魚沼の旬が詰まった献立のために、毎日みずから車を走らせ、農家での仕入れや山菜採りに勤しんでいる。
「この魚も、今朝、近くの川で獲れたものです」と、登場した焼き鮎の下に忍ばせたのは、身や肝を練り込んだ素麺で、一匹丸ごとを使った美しい皿だ。他にも、これまた地元産のトマト30個分の滋味を凝縮した『とまと30個』や、新潟の伝統野菜・大沢茄子や梨茄子など5種のナスを盛り込んだ『新潟茄子王国2021』など。最初から最後まで、南魚沼の実り尽くしなのだ。
元は菜食を好み、オーストラリアやインドでアーユルヴェーダやヨガの修業に励んだこともある桑木野氏。国内外のヴィーガンレストランで働いた経験もあるという。しかし【早苗饗】の料理長に就任するに当たって、自ずと決意が沸いた。 「南魚沼の四季をコースで表現するなら、やはり主役は野菜。でも魚や肉が入ってくるのも、自然な流れなんですよね」
海外での生活が長いからこそ、この地の季節の移ろいが愛しくてたまらないと話す桑木野氏。あえてタブーをつくらず、どこまでも素直に南魚沼の美味を紡いでいる。Eat Local NIGATA
【早苗饗】のメニューは、南魚沼の野菜尽くし。大暑の候の品書きにある「新潟茄子王国2021」は、大沢茄子に泉州茄子、水茄子、梨茄子、長茄子と、地元のナスが勢ぞろいする。しかし大切なのは、「食材の力、生産者の思いが感じられること」。ゆえにオーガニック野菜だけに、こだわらない。とにもかくにも、食を通して南魚沼を体感できることが肝要。一般的なヴィーガンとは異なり、テロワールを感じられるなら、魚や肉も食卓を飾る。
本物の新潟と出合う食体験 Eat Local NIGATA Hitosara special
急峻な山々と広大な日本海、また佐渡島も擁する新潟県。
とりわけ冬は雪ふかく、厳しい環境に置かれるが、
四季の移ろいが明瞭な大地は、多くの恵みを抱えている。
「ミシュラン」刊行で話題の新潟へ、地の味を体感しに行く。
Photographs by Shinjo Arai / Text by Koji Okano / Design by form and craft Inc.
※営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。