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ヴィラ・デラ・パーチェ
味わうのではなく、体験する。
能登半島の暮らしまで伝えるイタリア料理「その場所を訪れる価値は、そこで得られる体験にある」
【ヴィラ・デラ・パーチェ】のシェフ・平田明珠(めいじゅ)氏は、静かにそう語る。体験とはすなわち、その土地に流れる時間を味わうこと。平田氏にとって料理とは、その体験のためのツールのひとつに過ぎない。だから皿の上では料理人の個性ではなく、食材自体の個性が主張するのだ。
2020年11月、石川県七尾市街にあったレストラン【ヴィラ・デラ・パーチェ】は、同市の海水浴場の跡地でオーベルジュとして新たなスタートを切った。客室1室のみの小さなオーベルジュ。この移転の意味を、平田氏は「ゲストと共有する時間が長くなったことで、物語を伝える幅が広がりました」という。たとえば食事前の時間に海岸を歩くことを勧める。そして料理には、その海岸に生えていた野草が登場する。食材の産地を文字通り“体験”してもらえば、料理の感じ方が変わってくるのは必然だろう。シェフ自身も山や海を歩き、畑を訪れ、漁港で魚を捌くことで、この地をさらにインプットする。表面上の地産地消ではなく、その土地に入り込むような深い体験は、こうして生まれる。
コースは緩急をつけた計11皿。旬の食材だけではなく、塩漬けや発酵などを経た食材をあえて取り入れるのも、本当の意味でのこの地の季節感を伝えるため。ブリ、カニ、ノドグロといった能登の有名食材よりも、地元で食べられる小さな魚に価値を見出す。「わざわざ来てくれるお客様に、特別な体験をしてもらうこと」。そんな芯の部分が明確だからこそ、ここで味わう料理は唯一無二の個性を放つ。シェフの流儀
使用する食材は地のもの。しかし「あえて狙っているわけではない」と平田氏。毎朝自然の中を散歩し、週に2〜3回は漁師と話し、畑に生産者を訪ね、この地で食材と触れ合いながら生活をしている結果として、自然とそうなっているのだという。季節感だけでなく、生活感まで伝えるシェフの料理は、そんな土台の上に成り立っている。
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Photographs by Takuya Suzuki , Jiro Ohtani , Shinjo Arai /
Text by Shinji Yoshida , Natsuki Shigihara
Design by form and craft Inc.
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