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アジアの中心となる新食都 福岡の
新旧5名店を訪ねて
Hitosara special

鮨バブルに、注目の新店ラッシュ、
2020年にはアジアNo,1レストランのシェフもやってくる。
いま最も熱く、注目を集める食都であり、
地理的にもアジアの中心にある福岡。
そんな新食都で必ず訪れておきたい新旧5名店がこちら。

Photographs by Hiromasa Otsuka / Text by Shinji Yoshida
Design by form and craft Inc.

  • この道50年以上になる店主の中川敏行氏。28歳で博多に店を出してからは、薬院など市内を転々とし、
    2009年に現在の場所へと移転してきた

    中判 なかはん

    16歳から懐石料理ひと筋の店主
    静謐な空間で味わう滋味深き味わい

     味を知り尽くした大人が集う西中洲の一角。ビルの2階に、使い込んだまな板を削り、看板代わりとする凛とした佇まいの店がある。ここが茶懐石の名店と聞けば、身構えてしまうかもしれない。が、【中伴】はそんな人にこそ訪れてほしい一軒だ。
     店主の中川敏行氏は、石川県の出身。幼い頃、冠婚葬祭の際に男が料理を振る舞う風習のなかで育った中川氏は、父の姿に憧れ、小学生で料理人になることを決意する。中学卒業後には「一流を目指すなら、高校に通っている暇はない」と、16歳にして金沢の料亭の門戸をたたいた。そこで茶懐石に開眼した中川氏は、17歳で単身京都へ向かい、運命的な出会いを果たす。
     「京都に着くや否や、10店くらいの京料理の名店を見て回りました。そんななか【南禅寺 瓢亭】の玄関を目の前にして『ここだ!』と心が決まったんです。けれど、どこの出かもわからぬ17歳の若造を京都の名店が雇ってくれるはずもありません」
     中川氏はそれから1週間かけて店へ通い続けた。その後、ようやく働くことを認められたという。そして、【南禅寺 瓢亭】で8年、金沢【つる幸】で3年の研鑽を積み、28歳の若さで独立、【中伴】をオープンしたのである。
     以来、約30年間、懐石料理一筋の料理人が「うちでは気軽に、自由に楽しんでほしい」というのだ。「先生に教えを請うのではない。ここでは、小さいお子さんがいらっしゃっても、賑やかに食事を楽しまれても構いません」と笑うのである。
     それでいて、運ばれてくる料理はどれも滋味深く、その仕事に驚かされる。炊き合わせは、聖護院大根、鳴門穴子、菊菜に、柚子ではなくあえて祝粉(胡椒)を一振り。
     「いまは真空調理だったり、QRコードを読み込んで食材が分かる時代ですが、私たちは古典的な仕事を中心にしてお客様をもてなしたいと思っております。もちろんその中でも福岡らしさや、自分らしさは出せるのです」と中川氏は話す。
     どこまでも料理に実直、そしてゲストをもてなすことに全霊を尽くす。食を楽しむ喜びを、福岡の茶懐石の名店が教えてくれる。

    • カウンターをはめたり、壁をぬったりと、店主自ら手をかけ、3ヶ月かけてつくり上げた店内。部屋の角に見せ柱のない塗り回しの空間が凛とした雰囲気を醸し出す
    • 『炊合せ』。聖護院大根、鳴門穴子、菊菜。カツオと昆布の出汁でじっくりと炊き上げ、柚子のかわりに祝粉(胡椒)でアクセントを加えた
    • 『煮物椀』は、小鯛と短冊人参、ほうれん草、うろこ柚子のすまし仕立て。料理のなかで椀はメインにあたるが、この皿で100点ではなく、「料理全体のバランスが大切」と中川氏はいう
    • 阿片戦争時代に中国で磁器がつくれなくなり、代わりに有田で焼かせたという陶器などの骨董がある一方、現代作家の器も。料理の洗練を引き立たせる

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