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  冬の札幌、
旅の主役になる
レストランへ
Hitosara special

言わずと知れた食材の宝庫・北海道。
「食材頼みで職人が育たない」などと言われたのは昔の話。
今札幌では、力強い北の食材を繊細な技で光らせる
素晴らしい料理人が腕を振るっている。
食材×技術。その両輪がピタリとはまった5名店。
いざ、美味を味わうために冬の札幌へ!

Photographs by Atsushi Tanabe / Text by Natsuki Shigihara
Design by form and craft Inc.

  • エビ、ウニ、マグロといった「わかりやすいネタ」で勝負するのが、今の田中氏の信条。
    写真は意匠登録のエビの握り。巻いたエビの中にエビ味噌が詰まっている

    姫沙羅 ひめしゃら

    神業の握りと多彩なつまみに
    酒が“飲まさる”札幌の名店

     数々の店で腕を磨いてきた親方・田中彰氏が独立したのは16年前、37歳の頃。そこからの長い道のり。田中氏はやりたいことを肉付けしてきたのではなく、むしろ削ぎ落としながら現在に至る。「かつてはノドグロ、アラ、シラカワなどの高価で希少な魚を集めては、これがどれだけ凄い魚かって伝えていました。でもいつしか、それは“情報”を食べさせていただけだと気づいたんです」
     自らの仕事に違和感を覚えた田中氏は、東京へ飛び名店を食べ歩いた。そして四谷【すし匠】に出会う。「中盤から後半にかけて、そのバランスに驚かされました」と田中氏。ほぼ独学の田中氏に鮨の師匠はいないが、もっとも尊敬する職人は同店の中澤圭二氏だという。そこでの体験や後々も続く中澤氏との付き合いから、田中氏は【姫沙羅】で独自のスタイルを生み出す。それは田中氏自身が「飲ん兵衛のパラダイス、飲んパラです」という酒が進むスタイルだ。
     板場の額に入るのは、鮨の字の間に米の字が挟まった独自の漢字。これが田中氏の求める鮨の姿だ。
     「鮨っていうのは魚を旨く食べるのではなく、米を旨く食べるための方法。口に入れるとパラッとほぐれ、噛んでいると勝手に混ざり、最後に5〜6粒のシャリが口に残る。このタイミングで飲めば、旨口の日本酒がさらにおいしくなる」
     そう言って鮨を差し出す田中氏。言われた通りに口にすると、最後にたしかに5〜6粒のシャリが残る。まるで魔法だ。
     コースはいきなりトロたくからはじまり、4貫の握りを経てつまみに変わり、最後にふたたび握りになる。提供されるテンポ、味の構成、そして、差し挟まれる田中氏の軽快なトーク、そのすべてが酒を進ませるのだ。
     「自分の意志でなく、ついつい酒が進むことを、こっちの言葉で“飲まさる”っていうんだけどね。
     うちは“飲まさる店”でしょう?」そう笑う田中氏の笑顔に、さらに杯も進む。

    • 北海道産中心の食材に、江戸前の技法をかけ合わせ、新しい鮨をつくる田中氏
    • 握り4貫の後に登場する通称『飲ん兵衛セット』。常時10品ほどの旬素材のつまみが盛り込まれる
    • シャリは赤、白の2種を使い分ける。根室から届くウニは、その日一番のものだけをチョイス

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