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  冬の札幌、
旅の主役になる
レストランへ
Hitosara special

言わずと知れた食材の宝庫・北海道。
「食材頼みで職人が育たない」などと言われたのは昔の話。
今札幌では、力強い北の食材を繊細な技で光らせる
素晴らしい料理人が腕を振るっている。
食材×技術。その両輪がピタリとはまった5名店。
いざ、美味を味わうために冬の札幌へ!

Photographs by Atsushi Tanabe / Text by Natsuki Shigihara
Design by form and craft Inc.

  • 「技術を言葉で説明はできない。舌の記憶を、手で再現しているだけですから」
    根室に生まれ、カニに親しんで育った大地氏にしかできない調理がカニの魅力を引き出す

    活カニの花咲 かつカニのはなさき

    どこまでもシンプルに
    味の記憶が導くカニ料理の最適解

     昭和59年の創業当初は居酒屋のメニューのひとつとしてカニを出していたが、徐々にそのカニが評判を呼び、平成2年頃からはカニ一本勝負の店に。道を歩けばカニ料理店が見つかる北海道でこれほどの存在感を放つのは、仕入れから調理まですべてをこなす根室出身の大将・大地兼右氏の存在によるところが大きい。「料理はすべて独学。いわば亜流です」という大地氏。その根底にあるのはカニ漁師だった叔父に教えられた本物の味だ。
     「最高のカニの味を、舌が覚えているんですね。そこに近づけることを追求すると自ずとこういう調理なるわけです」
     コースは一本。大地氏自身が客席にまな板と熱源を持って来て、目の前で調理をする。巨大なカニが見る間に解体され、湯気を上げる出汁にサッとくぐらせたかと思えば、そのまま直接手渡しされる。季節によって、気温、湿度、カニの重量や質、それらすべてを加味した上での感覚で判断するため、その真髄を言葉にすることは大地氏自身にもできない。それでも大地氏の手さばき、立ち居振る舞いからは、圧倒的な“凄み”が伝わってくるのだ。
     刺身に近いねっとりとしたレア、半透明に白みがかって甘みを増したミディアム、弾力と風味が弾けるウェルダン。ボイルは塩ありと塩なしの2種でカニ本来の輪郭を際立て、炭火で仕上げる焼きガニで香ばしさを楽しむ。次々と繰り広げられる料理で、同じ食材でありながら多様な味と食感を生むカニのポテンシャルを見せつける。
     「足は繊維が太いから、生に近い状態が良い」「アンモニアが凍る温度はマイナス80度。カニは一度熱を入れたら、劣化との戦い」「これがカニの心臓。普通は洗い流してしまうけど、食べると独特の旨みがあります」。調理の合間に挟み込まれる薀蓄も、引き込まれる話しばかり。北海道は、カニが旨い。おぼろげに思い描いていたその図式を、改めて強化してくれる店だ。

    • 前菜は、北海縞海老、牡蠣、塩水ウニなど。どれも主役級の存在感がありつつ、その後のカニへの期待も高める
    • 合わせる酒は菊理媛。銘酒・菊姫の中でも最高の出来の酒に、さらに熟成をかけ奥深い味わいに
    • コースは前菜を除き、刺身、茹で、焼きと続くカニ尽くし。カニだけで腹を満たす、という最高の贅沢を実現する

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