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京都のトップレストラン 名店の
ニュースタンダートを
追う
Hitosara special

外食産業が試行錯誤を繰り返し、新たなレストランのあり方を模索する昨今。
京都のトップを走る料理店、レストランは、いまどうなっているのか?
これからのニュースタンダードになるであろう、京都の5名店を追った。

Photographs by Toshihiko Takenaka , Kunihiro Fukumori , Shuhei Sakai /
Text by Natsuki Shigihara / Design by form and craft Inc.

  • 「今日もお客さんの笑顔のために頑張ろうと思う」そんな言葉を真っ直ぐに語れるのは、本心からそう思っているから

    祇園さゝ木 ぎおんささき

    真摯なもてなしの心が
    技術を越えた美味を生む

     名店ひしめく京都にあって、真っ先にその名が挙がる【祇園さゝ木】。その人気の秘密をたどってみれば、やはり佐々木浩という料理人の人物像に行き着く。無論、技術や知識、食材への理解は、他の追随を許さぬレベルにある。カウンターに立てば途端に空気が引き締まり、包丁を握る姿には凄みさえ漂う。日本料理の根幹を支えるだしの旨みと風味は圧巻。素材の質と鮮度、飽きさせず疲れさせもしないコース展開、肩肘張らせぬ雰囲気づくり。すべては名店の貫禄だ。だが、さらに話を続ければ、佐々木氏の一番の魅力は、もっと内面的な部分にあるのではないかと思えてくる。それを端的に言えば、“もてなしの心”だ。
     「おいしさの上を行くのは、楽しさ。楽しい時間をつくり出すことが、料理人の努めです」
     佐々木氏が“楽味(らくみ)”と呼び追求するその信念。そのためには、どれほど緻密に練り上げた料理構成であろうと、あっさりと入れ替えてしまう。たとえば両家顔合わせなら緊張を解きほぐし、話の種にもなるわかりやすい料理、長寿のお祝いなら主役がおいしく味わえる柔らかい料理、といった具合。鮑の切り方、火の入れ方、八寸の構成や盛り付け、酢の物の酸味。どれも決まったレシピではなく、すべてはゲストの気持ちに思いを馳せ、心を込めてつくり上げる。いわば、すべてのゲストに合わせて仕立てるオーダーメイドの日本料理だ。
    「お客さんが“おいしかった”で帰らはったら80点、“楽しかった”で100点、次の予約入れていったら120点です」
     そう笑う佐々木氏。きっとこの笑顔を見るために、多くの食通は足繁くこの店に通うのだ。

    • この日の鮑は福井産。小さく切らず、1/3程度をひと口で味わうのがオススメ
    • カウンターの中央には12年前の移転に際して設えた薪窯が鎮座する
    • 彩りと味のバランス。どちらも絶妙に仕立てられた9月の八寸
    名店のニューノーマル

    オープン以来22年間、常に満席だったが非常事態宣言によりはじめて空席が出た。だが佐々木氏の思いは「原点に戻った」というだけ。「料理との向き合い方だけではなく、お客様への頭の下げ方ひとつとっても、改めて考え直すきっかけになった」というこの時期を経て、消毒などの具体的な対策も含め今まで以上にゲスト目線のサービスが徹底されるのだろう。

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