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  3. 台湾のトップレストラン6<ファインダイニングの夜明け>

ストリートフードの聖地台湾に起きた ファインダイニングの
夜明け
Hitosara special

巧みなプレゼンテーションを交え、ゲストを楽しませることを突き詰めるファインダイニング全盛の世において、
これほどまでに勢いのある国はあるだろうか。
世界が注目するばかりか、日本のトップシェフ達も台湾への出店を加速。一体、台湾の地で何が起きているのだろう?
今の台湾ファインダイニングを代表する6店をフィルターにして観測すると見えてくるものがあるはずだ。

Photographs by Takahiro Tsuji / Text by Akio Shimanuki , Yoko Utsumi / Coordinate by Yian Chen
Design by form and craft Inc.

  • コースのメインディッシュ、サワラをグリルし、白菜の醤油煮込みや干し大根を使ったソースと、グリーンのネギ油を効かせたひと品。
    サワラの下にはクリームチーズを敷き、酸とコクを与えることで味わいをまとめている。あしらいの紅白の大根は梅酢に漬けたもの。

    RAW ロウ

    台湾の料理界を牽引するスーパーシェフ、
    アンドレ・チャン監修のレストラン

     台湾のファインダイニングシーンでは、アンドレ・チャン氏の影響を受けていないシェフを探すほうが難しいかもしれない。2018年にシンガポールの【Restaurant André】を閉店し、現在は台湾での活動に主軸を置く事になったことも大きいかもしれないが、「アジアのベストレストラン50」において、いわゆる殿堂入りを果たした実力は台湾のシェフから注目を集めないわけがない。そんなアンドレ・チャン氏が2014年に監修する形でスタートしたのが【RAW】である。
     メインシェフとして抜擢されたアラン・ホワン氏は【RAW】のコンセプトワークをアンドレ・チャン氏と共につくり上げ、ご存知の通り、そのスタイルは瞬く間に注目されることとなった。店内はステレオタイプな高級感を感じさせるものではなく、どこかカジュアルさを感じさせつつも、その造作には絶妙にアートワークを組み込む。敷居の高さを感じさせることなく、体験の質を引き上げる演出を用いるのが他との違いだろう。
     そんな空間で提供される料理のベースとなっているのは、フレンチやニューノルディック・キュイジーヌの手法。そこに台湾料理の伝統を融合することで【RAW】の料理は完成する。ホワン氏は、調理法と味をいかに引き合わせるかを常に考え、生活からの観察、直感からの閃き、食材に触れたときのインスピレーションという3つのファクターを合わせて組み上げていく。そして、面白いのは感じたことを必ずノートに書き留めるだけでなく、それを書いた当時の思い出や自分の環境、感情なども同時に付け加えること。こうすることで、実際のメニューに落とし込む時に、よりリアルな料理をクリエイトすることができるという。
     【RAW】で使用する食材は9割以上が台湾の食材だ。台湾は食材の宝庫とも目されており、まだ日の目を見ていない品種、そして異なる味わいの食材が多くある。しかし、実のところ、この店がオープンするまでは台湾のローカルなレストランシーンではあまり使われていなかったという。地場の食材を見つめなおし、伝統ではない手法で料理に昇華するニューノルディック・キュイジーヌの考え方を【RAW】が台湾に広めたことで、生産者にさらに美味しいものを作る情熱が生まれる、という好循環ももたらしたのである。まさに、【RAW】は台湾レストランシーンの震源地。台湾の今を知りたいならば、初手でここを訪れない手はないだろう。

    • シェフのアラン・ホワン氏。台湾のレストランで修業後、2013年にスウェーデンへ。北欧の料理とカルチャーに触れる。2014年にフランスで研修として【Les Crayeres】に入り、シンガポールの【Restaurant André】を経て【RAW】のシェフに就任
    • 10種の春野菜を使用したサラダ。この時季の野菜には苦味が出てくるので、泡状にしたコーヒーなどを下に敷いてバランスを取る。上から同様に10種の野菜の味を含ませたスープをかけて完成。サクサクに焼き上げられた生地を崩すとフランス産のオイスターが顔を覗かせる
    • 上海料理の菜飯を再構築した料理。菜飯の半分は焼き上げられており、2種の食感、フレーバーが楽しめる。上にのった黄身と、ズッキーニや発酵させた豆を使ったラタトゥイユとともに口の中へ入れれば、濃厚で複雑な味わいに包まれる
    シェフの流儀 アラン・ホワン氏

    【RAW】の世界的な人気についてどう思うかという問いに「ここまでとは思っていなかったけれど、台湾でこういった食のプラットフォームになる店が受け入れられたことは嬉しい」と語るアラン・ホワン氏。撮影したサワラの料理には熟成の技法が使われていたが、今後、さらに熟成の技術を極めて料理に取り入れていきたいと意欲的だ。

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