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Arzak アルサック
新バスク料理を生み出した、
バスク地方きっての名門レストラン現在、スペインバスクがこれほどまでに美食地方になったのは、1970年代に“ヌエヴァ・コシナ・バスク(新スペイン料理)”が提唱されたからに他ならない。豊かな食文化の伝統を持つこの地方の料理の魅力を現代に適応させつつ表現しよう、というこの運動の旗手こそが、【アルサック】のホアン・マリ・アルサック氏だった。
地元に伝わる食材や風味を大切にしつつも、好奇心旺盛に世界を旅し、各国の食文化の魅力をバスクの伝統に巧みに落とし込む。「基本の食材はもちろん地元バスクのものだ。でもアイディアや風味に国境はない。完成した料理の味が“バスクの魅力”を表現する限りはね」。過去の遺産をそのままの形で守るのではなく、進化させ、常に生き生きと表現するホアン・マリ氏。齢(よわい)75にして、日々、嬉々として厨房に立っている。
今でこそ、創作料理のラボを構えるシェフも多いが、この店は、早くからラボで新作研究をしており、ラボ専属の精鋭チームも強固。2年前にラボを拡大し、さらに充実した体制になり、創作の可能性を一段と広げた。そして厨房では、数年前から娘エレナとのツートップ体制。厨房とラボの盤石な体制で、年に50もの新作を発表し続けている。
常に満席御礼で、予約が取りづらいバスク地方の名店中の名店。何代にも渡って継がれてきたレストランにしか醸し出せない家庭的な雰囲気の客席の多くを占めるのは、地元の人々だ。地元に愛され地元を愛し続けて120年。ヌエヴァ・コシナ・バスクを生んだ【アルサック】は、昔も今も、そしてこれからも、美食大国バスクの名声の中心に立地続けて行くだろう。シェフのこだわり ホアン・マリ=アルサック氏(右)
エレナ・アルサック氏(左)ゲストが私たちの店で食べた時、「ああ、これはバスク料理だ」と思って欲しい。そこさえ守れば、コンセプトやアイディアに限界はない。世界中の食文化に刺激を受けつつ、【アルサック】スタイルのバスク料理を提唱したい。
Column
バスクで忘れてならない サンセバスチャンのバルホッピング
連想ゲームで“サンセバスチャン”と問えば、かなりの確率で“バル”と答えが返ってくるだろう。
旧市街を中心にずらり立ち並ぶ、バル、バル、バル! カウンターにぎっしりと、美味しそうなタパスやピンチョスを並べたバルは、今や、この街のアイコンだ。
朝は、タパスをつまみながらのんびり軽口をたたき合うシニアたち。昼は、働者と観光客がひっきりなしに出入りして大賑わい。そしてバルが最も盛り上がる夜。通りにはバルホッピングを楽しむ人々が行き来し、調べておいたお目当ての店や、賑わいに惹かれて飛び込んだり。カウンターで立ち食いが基本のバル。居合わせた人々と、食いしん坊話題が始まるのもお約束。ここが最後の一軒、と決めていたのに、聞くからに美味しそうなバルが気になり、ついついホッピング続行。こうして、サンセバスチャンの夜は更けてゆく。