1. ヒトサラ
  2. ヒトサラSpecial
  3. 浪速・美味礼讃

日本料理からイノベーティブまで 浪速・美味礼讃 Hitosara special

東京とは異なるベクトルで、独自の食文化を形成する大阪。
それはガストロノミーにおいても同じだろうか?
大阪に根を下ろし、大阪に愛されてきた名店の実力はいかに。
日本料理からスパニッシュ、イノベーティブまで、
ヒトサラ編集部が大阪の5名店に迫った!

Photographs by Takuya Suzuki / Text by Shinji Yoshida / Design by form and craft Inc.

  • 店主の穴見秀生氏。【吉兆】にて研鑽を積み、30歳の若さで【湖月】の料理長になる。
    その15年後に店を買い取り、【本湖月】と改めた。2014年には辻静雄食文化賞 専門技術者賞を受賞

    本湖月 ほんこげつ

    日本料理に人生を捧げ55年
    本物を知りえる唯一無二の料理

     穴見秀生という料理人の人生を味わう料理。そう言ったら過言であろうか。何せ、この【本湖月】という店に、偽物は何ひとつない。土と壁と紙だけで仕立てられた見事な数寄屋造りの空間。カウンターは厚さ20cm以上あろうかという樹齢600年以上の吉野の檜を使い、器には尾形乾山や北大路魯山人の皿などが当たり前のように登場する。それがどれほどのことか。石畳が続く風情ある法善寺横丁に店を構え、25年以上。「70歳になる今まで、一切遊んで来なかった」という店主・穴見氏の言葉に決して嘘はなく、膨大な時間とお金をこの【本湖月】のために費やしてきたのである。
     無論、そこには料理人としての穴見氏の哲学がある。
     「修業時代に学んだのは、美味しいことは当たり前ということ。しかしそれ以上もてなすとなると、料理だけではどうにもならない。空間もごちそうになり、お道具が大切になってきます」
     島根の白魚とごま豆腐、うっぷるい海苔、松露をかきたま汁に仕立てた煮物椀を目の前にその説得力も増す。
     さらに、穴見氏は「『美味しいですね』だけでは終わってならない」とも。食材を知り、器を知り、本物を知る。そして、それらを愛でる心が必要で、料理人だけでなく食べ手が育たなければ、日本料理そのものに未来はないというのである。その究極的な信念を持ち、穴見氏は25年以上にわたり、このカウンターに立ってきたのだ。
     「世界に通じる日本料理ではなく、日本人のための日本料理を」
     大阪を、否、日本を代表する日本料理店のひとつで、本物とはなんたるかを知る。

    • 穴見氏が「玉手箱」と評する煮物椀は、まさに日本料理の華。この日は、白魚とごま豆腐、うっぷるい海苔、松露をかきたま汁にした
    • 取材時は、赤貝とタイラギ貝、つぶ貝とともに大根でぼんぼりを。煮切り酒、すだち、ネギ油、薄口醤油、塩麹を合わせたものでいただく
    • 樹齢600年以上の檜のカウンター。料理の美味しさだけでなく、日本料理の真髄にふれることができる店だ

Back to Top