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日本料理からイノベーティブまで 浪速・美味礼讃 Hitosara special

東京とは異なるベクトルで、独自の食文化を形成する大阪。
それはガストロノミーにおいても同じだろうか?
大阪に根を下ろし、大阪に愛されてきた名店の実力はいかに。
日本料理からスパニッシュ、イノベーティブまで、
ヒトサラ編集部が大阪の5名店に迫った!

Photographs by Takuya Suzuki / Text by Shinji Yoshida / Design by form and craft Inc.

  • レストランながら、店内には個室もテーブル席もない。
    8席のカウンターに座り、ゲストはイノベーティブな料理とワインと向き合って、その世界観を楽しむ

    La Kanro ラ カンロ

    作家のカトラリーから始まった
    ワインバーと見紛う独自の世界観

     カウンターの目の前に整然と並ぶグラスは、オーストリアのロブマイヤー、ザルト、ドイツのツヴィーゼルなど。ワインバーかと思えば、さにあらず。レザーマットの上に用意されるカトラリーが金沢の彫金師、竹俣勇壱氏の作品だと分かれば、ここがただの際物レストランでないことは容易に想像できる。
     「実はここ、カトラリーから派生した店なんです」
     そう話すのはオーナーシェフの仲嶺淳一氏。その真意を問うと、理由はただ「カッコイイから」とのこと。竹俣氏が手がけたカトラリーと出会い、それに合う空間をデザインし、料理を考案し【La Kanro】は生まれたという。
     「多分、竹俣さんのカトラリーと出会わなければ、このような料理をつくってはいません。おそらくクラシックなフレンチをつくっていたんじゃないかな」
     そんな言葉が俄かに信じがたくなるような料理は、完全にイノベーティブに振り切っている。前菜の一品は、貝殻にジュレがかかり、木の芽と花が美しく盛られたひと皿。ジュレのなかにフォークを入れれば、春を感じさせるホッキ貝や赤貝、ハマグリ、タイラギ、ミル貝が姿を現わす。貝の出汁とジン、ライムの皮を忍ばせたジュレは「ジンリッキーをイメージした」そうで、爽やかな酸と香り、ほのかな苦味が、春を運ぶ。
     「油脂分と塩分を控え、旨味や酸味といった五味をしっかりと打ち出したい」と仲嶺氏。
     それがコンセプト重視の料理でないことは、食べれば瞭然。グラスも豊富に揃うというワインとともにペアリングを味わえば、仲嶺氏が打ち出す【La Kanro】の痛快な世界観が加速度的に広がっていく。

    • ホッキ貝や赤貝、ハマグリなどの貝を、貝の出汁にジンを合わせたジュレとともにいただくひと皿。軽やかな味わいと見た目が春らしい
    • フランス・ロワール産のホワイトアスパラガスには、越前ガニとクリーミーなチーズ、ブラッティーナを合わせ、ハーブを散らした
    • カトラリーから始まった店というだけあり、竹俣勇壱氏のカトラリーから作家に特注した皿など、多彩に揃う
    • 3年間を過ごしたフランスでの修業時代には、パリの三ツ星レストラン【Astrance】でも研鑽を積んだという、シェフの仲嶺淳一氏

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