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未来への答えがここにある SDGsなレストラン Hitosara special

SDGsという言葉が世間に浸透しはじめて久しいが、
飲食業界において、それはもはやつくり手だけの問題ではなく、
食べ手もそれを意識するべき時代が到来している。
ただし、その根底にあるのは、美味しさであり、食事の楽しさだ。
今回はそんな美味しく、楽しいSDGsなレストランをご紹介する。

Photographs by Kayoko Ueda , Takuya Suzuki , Mami Hashimoto /
Text by Koji Okano , Natsuki Shigihara , Ayano Yoshida /
Design by form and craft Inc.

  • 『岡山のイノシシとシカ、宮下大根の炊き合わせ』は、ジビエからとったダシと、昆布のみでとったダシで仕上げる。
    ロースとヒレを混ぜ、黒コショウなどを利かせた肉団子は、脂と赤身の旨味がたっぷり

    てのしま

    名店で培った京料理の腕前を、
    自身の郷土の未来につなげる

     京都を代表する料亭【菊乃井】で18年もの間、三代目・村田吉弘氏に師事し、京都本店の副料理長、また東京・赤坂店の渉外料理長も務めた林亮平氏。
    「会食での需要が多いためか、和食には“よそゆきの食事”の印象があります。もっとカジュアルに和食を楽しんでいただきたくて、僕が導いた答えが、このスタイルなんです」

     約10皿からなるおまかせのコースは、名料亭で培った技術やセンスが光る構成ながら、北九州のシマフグは唐揚げに、ご飯には棒寿司やいなり寿司を、汁物にはにゅうめんをと、親しみやすい皿の展開。内装も、南青山にふさわしいスタイリッシュな空間でありつつ、昔ながらの“おくどさん”をイメージした茶の色づかいが心地よく、寛げる場所である。

     「和食を、より気安い存在に」との思いで、食文化として未来に残さんと模索する。その姿勢はまた、自身のルーツにもつながる。
     「僕は岡山県育ちですが、本家は瀬戸内海に浮かぶ小さな島・手島にあります。幼い頃からよく通った場所ですが、今では島民15人の限界集落に。その手島を後世に残すべく、近い将来、島にオーベルジュも開業するつもりでいます」

     店名を【てのしま】と冠するなど、郷土を思う気持ちが深い、林氏。その持続を願うからこそ、志を同じくする生産者の食材を好んで使う。たとえば、岡山県高梁市で長年、田畑を守るべく有害鳥獣の捕獲に努める猟師から取り寄せるイノシシ。これを香川県坂出市の大根と合わせて椀物にするが、仕入れ先の八百屋は、農家の安定収入のために、これを2,000本先物買いしているそうだ。そうして集めた食材をしっかり日本料理に昇華させるのが、林氏の手腕。『岡山のイノシシとシカ、宮下大根の炊き合わせ』は、澄んだ昆布ダシの風味と自然が醸す滋味深さの向こうに、林氏の信念が際立つ一品だ。

    • 林亮平氏は、首相官邸での晩餐会の料理を担当。また女将の紗里さんは、北欧で日本食レストランを経営した経験も
    • 『北九州産シマフグの唐揚げ』(左)には瀬戸内レモンのペーストを添える。岡山の地魚を使う『ヒラの棒寿司』
    • 内装は、話題の店を多く手がける谷尻誠氏、吉田愛氏の「SUPPOSE DESIGN OFFICE」が担当
    ここがSDGs

    林氏にとってのSDGsとは、店名【てのしま】が示すごとく、自らのルーツ・手島にかける思いそのもの。「2017 年に【てのしま】を開業した時から、手島を次代に受け継ぐべく、最終目標をオーベルジュ開業に設定しています」。そんな林氏にとって、農業や漁業を未来へつなごうとする生産者との絆こそが、何よりも大切なものなのだ。

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