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Toyo Eatery トーヨー イータリー
シェフの記憶と古典料理を
再構築したモダン・フィリピーノ「一番大切なのは、フィリピンのフレーバーをプレゼンすること」
そう断言するのは、2018「アジアのベストレストラン50」で部門賞である「注目のレストラン ミーレ賞」を獲得した【Toyo Eatery】のシェフ、ジョーディ・ナバラ氏だ。
しかし、ナバラ氏の修業先を聞けば、僅かな疑問が思い浮かぶ。なぜなら、氏が研鑽を積んだのは、香港にある三ツ星カントニーズ【ボー イノベーション】だからだ。そんな疑問をぶつけるとナバラ氏は「学んだのは広東料理ではなくて、それをどのようにしてモダンな料理としてプレゼンするか。そのアプローチや技法が自分には重要だった」という。ナバラ氏が修業先に香港を選んだのも、はじめから広東料理ではなく、モダンフィリピーノを標榜していたためだったといえる。フィリピン料理をモダンな切り口で表現し、フィリピン料理や食材の隠れた魅力を、フィリピン中の、いや世界中のフーディーたちに発信しようとしていたのである。
だからこそ、ナバラ氏の料理は一見して、フィリピン料理だとは気づかない。しかし、それらを紐解けば、そこにはフィリピンの、ナバラ氏のアイデンティティがしっかりと落とし込まれている。たとえば、スペシャリテというひと皿は、ナバラ氏が幼少の頃によく歌ったという「バハイクボ」という歌にインスピレーションを受けている。その歌には実に18種類もの野菜が歌詞として登場するのだが、土のようにもられた胡麻とナスのパウダーを掘り起こすと、それらの野菜すべてが現れるという仕掛けだ。それだけでなく、メインに登場する肉料理もフィリピンの串焼きサテであるし、ニルパックという昔ながらの料理をアレンジした一品もあったりする。
「いまは食材の70%がローカルプロダクツ。よりクラシカルな料理にフォーカスしていくと、本当にフィリピン料理は奥深い」
見た目はモダンでも味わえばしっかりと分かる。ナバラ氏の料理にはフィリピンへの大いなる愛が歌われていることを!シェフの流儀 ジョーディ・ナバラ氏
フィリピンの料理はもとより、フィリピンの文化を、食を通して表現し発信すること。そのために、「幼い頃の記憶をたどり、フィリピンのテロワールを料理に落とし込むことがわれわれの目指すべきレストランのあり方」だと話す。
Column
フィリピン美食旅のハイライト!? マニラの避暑地、タガイタイへ!
マニラから南へおよそ60km。
タアル湖北側の標高およそ700mの高原地帯にある
避暑地・タガイタイへ日帰りトリップ!
マニラから直線距離でおよそ60km。フィリピンの慢性的な渋滞事情を考慮すると、マニラから車で片道2時間ほどかかる。その所要時間、夏でも冷涼な気候で、標高の高さなどのロケーション、日帰りでも楽しめる手軽さを含め、「マニラの軽井沢」などとも呼ばれるエリアがタガイタイである。
自然あふれる町ながら、乗馬やハイキングが楽しめるだけでなく、遊園地があり、地元のマーケットがあり、スパなどのリラクゼーションスポットもあり、まさに避暑地と呼ぶにふさわしい場所。ただ、フーディーにとってはただの避暑地ではない。なぜなら、タガイタイは高原というロケーションを活かした、野菜や果物の栽培が盛んで、オーガニックレストランなどもいくつか点在しているからだ。その代表格のひとつがこの【Antonio’s】だろう。
メインストリートから小径を進むことおよそ2km。田園に囲まれた「まさか?」という場所にコロニアル風の洋館が建っている。店内に一歩足を踏み入れれば、アンティークのインテリアがそこかしこに配され、可憐な高原の花々が咲くガーデンビューが広がる。窓から差し込む陽光の美しさには都会では感じられない透明感がある。
そして、料理が何より素晴らしい。フレンチをベースとしつつ、素材力を感じさせる料理は、モダンというよりも、クラシカル。熟成庫で寝かされた牛肉の量と質は、フィリピン随一だろう。サラダに使われるレタスなども自家栽培するというから、タガイタイにある高原レストランらしさが際立っている。
また、何よりそのホスピタリティが素晴らしく、「せっかく来たのだから、時間を気にせず寛いでほしい。開店から閉店までいてもらっても構わないから」とは、オーナーシェフのアントニオ・エスカランテ氏。都会のファインダイニングとは異なる、地方レストランの醍醐味。タガイタイの日帰りツアーは、マニラの美食旅のハイライトにもなりえる魅力を秘めている。