ヒトサラ10周年記念企画

「シェフがオススメするお店」特別座談会

Vol. 1(前編)

“料理人の顔が見えるグルメメディア”をコンセプトに10年目を迎えたヒトサラならではの、「シェフがオススメするお店」座談会。今回は、【クリスチアノ】佐藤幸二シェフと、【Äta】掛川哲司シェフ、【No Code】米澤文雄シェフが、「デート」「接待」「ホスピタリティが素晴らしい」「プロとして衝撃を受けた」「B級グルメ」という5つのテーマに沿ってオススメするお店とその理由を語り合います。「デートにオススメ」「接待・会食でオススメ」をテーマに、トップシェフ3人がリストアップしたお店とは!

参加シェフのプロフィール

佐藤幸二シェフ
ポルトガル料理店【クリスチアノ】をはじめ、【ナタ・デ・クリスチアノ】【おそうざいと煎餅もんじゃさとう】など、代々木上原エリアを中心に複数店舗を展開。

掛川哲司シェフ
代官山【Äta】をはじめ、恵比寿【グッドラックカリー】や東京ミッドタウン日比谷に【Värmen】など複数店舗を展開。

米澤文雄シェフ
2022年オープンの西麻布【No Code】をはじめ、多数のレストランプロデュースや企業のフード・コンサルティング、メニュー開発など幅広く活躍。

↓座談会動画はこちら!

3人のシェフが考える「いいお店」の条件

お店のリストアップしてきました?

 
昨日のうちに店名だけ。撮影中スマホ見ていいですか?(米澤さんのスマホを覗き込み)文雄君、めっちゃ書いてるじゃん、すごい!
 

 
真面目なんで…すみません(笑)。

 
今日はぜんぶ文雄君しゃべっていいよ。
 

 
いや、今日は僕、米澤さんのトークを止めに来たんで(笑)。

 
――仲が良さそうなので……、3人の接点を伺いたいです!

 
掛川さんとは話したことはないんですが、以前【ペタンク】の山田さんと共著で魚のレシピ本を出したことがあります。
 

 
そうなんですか? 僕は別々ですが二人とも接点があります。佐藤さんは10年以上前に僕の地元・浅草に住まわれていたので、友人のバーでよくお会いしたりして。

 
僕は【Äta】をつくるとき、すでに【クリスチアノ】があって、なんとなく佐藤さんの背中を見ていたんですよ。

 
本当に!? 

 
本当ですよ(笑)。ここら辺(代々木八幡)でずっと物件探してたけど全然出てこなくて…。佐藤さんはこの辺りの物件情報すごい持ってるらしいって聞くんですけど(笑)。

 
俺にいってくれればなー(笑)!

 
自転車で上原の方までまわって、なかったから広げて、今の【Äta】の場所を見つけたんです。

 
でもあの頃の【Äta】の物件って、結構勇気いりますよね?

 
本当、勇気いるよ。だってあんなところ誰も来ないと思ったもん。「あんな駅から遠くて、人も来ないところじゃできないよ」って親父にいったら、「そんなこというくらいなら料理人辞めたら」っていわれて、うっせーな! って(笑)。
















米澤さんとこういうふうに実際に話すようになったのは、コロナ禍前くらいからですかね? 共通のお客様が「米澤君ってシェフがいて、掛川君と似てるから」って何度もいうんですよ。なんかこう、出てるものが近いって(笑)。

 
青山【the BURN】にもお昼とかよく来ていただいてて、もちろん知ってはいたけど、仲良くなったのは広尾のビアバーで飲んでからですよね。

 
――そんな3人のシェフなんですが、まずはそれぞれが考える「いいお店の条件」をお聞きしたいと思っています。

僕は比較的賑やかで、翌朝「なんか気持ちよかったな」とか「また行きたいな」って思えるお店。【クリスチアノ】をつくるときも、料理にあまり傾倒したくなくて、店のつくりや全体の構成を重視して、「あそこ居心地よかったな」と振り返ってもらえる場所にしたかった。それが自然とできているお店と、できていないお店ってまったく違うんですよね。考えてできる部分もあるから、例えばうちだと、天井を低くして声のハウリングを防いだり、低い天井でも奥行きを出すために上からランプを吊るしたり、テーブルの奥行きと横幅も、隣の席との間隔がちょうどいいバランスにしたり。だって、話すのに疲れるお店ってさっさと帰りたくなるでしょ。疲れずに話せて、それで従業員もちょうどいい間で来てくれるお店がいいよね。お客様同士で話してるのに、いきなり入ってくるスタッフっているじゃないですか。

 
まあまあいますよね(笑)。

 
イタリアンって空気感のいいお店が多くないですか? イタリアの気質でしょうか。

 
それはあるかも。賑やかな店づくりができてる。イタリアンのシェフには申し訳ないけど、たいしてやってなさそうに見えちゃうんだけどね。

 
――ここはカットしますね(笑)。

 
いや、シンプルな料理が多い分、そう見えるってことね! 料理人って、こねくり回しているのを料理と思っている時期から、結局は引き算の料理がいいってなるんですよ。

 
それはすごい感じるな~。若い頃はやっぱり自分の技術や経験を披露したいんでしょうね。

 
イタリアンに比べるとフレンチは、陰湿な気質の人が多いからな(笑)。

 
え、ここはカットしなくていいんですか(笑)?

 
僕も居心地のいいお店がいいですね。多少まずくても居心地がよければ行くし、おそらくそういうお店ってそんなにまずくもならないんですよ。逆においしくても、感じが悪かったり間が悪いお店には行かないですね。あと、出す順番とか、子どもはダメだとか、絶対できるであろうことをできないっていうお店も嫌いですね。

















 

“間”って一番大事だけど、その空気感とか距離感とかって、スタッフに教えるの難しいですよね。料理はレシピもあるし教えられるけど、空気感や間とか店の雰囲気みたいなものって教えられることじゃないから。ただ、僕がオススメのお店を選ぶとなるとちょっとベクトルが違って、レストランの原点って絶対男女だと思っているんです。男女で来たときにいいお店が、僕の中でもいいお店だと思っていて、店舗をつくるときも、天井の高さはもちろん、各所に口説けるか口説けないかのベクトルを必ず入れる。僕がつくるお店は意識的にBGMを大きめの音量にしていて、少しうるさいぶん、男女が近寄ってしゃべったり、話す声がほかの席に聞こえないように間隔を取ったり。

「デートするお店はデートっぽくないお店が大前提。レストランの原点は男女だと思っています」(掛川)

デートも段階が色々あると思うので、けっこう選んで行くんですけど、わりと気に入ってるのは銀座の【THE APOLLO】とか。

 
あーなるほど! 最近行ってないな。

 
いわゆる大箱であまり干渉されないんだけど、おもしろい料理がちゃんと出てくるところがデート向きで、親密になりすぎないシチュエーションもいい。デートするお店はデートっぽくないお店が大前提で、某月刊誌みたいな感じの、いかにもデート! って感じのお店って、女の子がひきません? あとは【YAUMAY(ヤウメイ)】とか。料理をシェアできて、取り分けられるとか、ある程度スキルを見せられるのがいいかな。

 
あれでしょ! フォークをトングみたいに、こう持ってサーブするみたいな(笑)。

 
一同 (笑)

 
――確かにシェフはみなさんできますよね。


男女二人なら、僕はどちらかというと、しっぽりしたお店に行くかもな。先日、嫁さんと【JULIA】に行ったんですよ。場所もちょっと奥まってるし、ワインも料理も丁寧に説明してくれるし、多分こういう所にデートで連れてこられたらうれしいんだろうなって、嫁と行きながら思いました。あとは、僕も連れられて行く側ですけど、銀座の【Wine Bar Bâtonnage(バトナージュ)】ってマニアックなワインバーもいい。銀座8丁目の地下にあるお店で、めちゃめちゃ骨太なビストロ料理を出していて、すごくおいしいんです。98%はフレンチワインですけど、グラスワインも多くて。

 
そういう銀座とかのお店ってどうやって見つけてるの?

 
僕がお世話になっている方がよく行くワインバーで、2、3ヶ月に一回くらいのペースでその方と仕事終わりにそこで待ち合わせして、ちょっと食べたり。特にソムリエの方の説明の仕方もいいし、空気感も柔らかくて、めちゃめちゃいいんですよ!

 
俺はデートとか行かないんだけど、最近知り合いと行った奥渋谷の【CHOWCHOW(チャウチャウ)】は、なんとなく女の子が好きなんだろうなって。さっき掛川さんがいってた“デートの段階”とかよくわかんなくて、あんまり遠いお店に行って飲みすぎちゃうと、多分俺が帰れなくなって迷惑かけるし…と考えると、遠いところは行かないな。

 
本当ですか?

 
“いい人”ですね(笑)。

 
だから近場で、最近できた【1500(ミレチンクエチェント)】も。【mimet】や【ウルラ】など人気店をいくつもやっているヤマモトタロヲさんが手がけたお店。パティシエ・磯尾直寿さんがイタリア帰りの方で、めっちゃうまいお菓子をつくるの。だからこの辺り(代々木八幡エリア)は【PATH】の後藤さんと磯尾さんっていう二人のイタリア菓子職人がいるんですよ。デートは女の子が居心地いいと感じる、付かず離れずぐらいの接客で賑やかなお店がいいと思っていて、うちの妻と一番初めに行った【ロス・レイエス・マーゴス】もオススメ。今はあまり行ってないけど、当時から居心地がよくて。接待や仕事なら待ち合わせしやすい駅とかがいいと思うんですが、デートなら駅から少し歩くお店で、一緒に駅まで帰るとかも楽しいかもですね。

 

「仕事相手だからこそ、まず自分が好きなお店に連れて行く。波長が合うかが見えてきます」(米澤)

今回のテーマで一番悩んだな~。接待といえば個室があるお店かなぁと想像して、僕は【ESqUISSE(エスキス)】の個室がすごい好きなので推したいな。ちょっと上質なお店で、とても柔らかいサービススタッフが多く、サービスの距離感もいい。個室の景色もいいし、過ごしやすいんです。あともう一つ挙げるのは、「ザ・ペニンシュラ東京」の【ザ・ロビー】。プロジェクトの打ち合わせをあそこですることも多いんですが、何がいいって、自分がそういうラグジュアリーなホテルに泊まることはほぼないので、入ると背筋がピンと伸びるというか…。

 
確かに! ホテルってそうですよね!

 
「東京ミッドタウン日比谷」に【Värmen(バーマン)】を出すときもあそこで打ち合わせして、「これからこの場所に乗り込むんだ!」ってあそこで決意したんです。「僕もこのホテルに泊まれる人間になろう!」とか、「ここのロビーで日経新聞を読む人になってやろう!」と思って出店を決めたので、自分よりもひと回り大きいというか、ひとつ上の場所で打ち合わせするようにしてますね、仕事では。


――エピソードつきのいいお話ですね。

 
僕は「接待」の大切なポイントはお土産だと思っていて。浅草に住んでいるときによく行ったおでんの【大多福(おたふく)】は、オリジナルの陶器の壺におでんをパンパンに詰めてくれるお土産が名物なんです。「保温用に」と一番上にがんもを入れてからフタをしてくれるんですけど、帰りにこのお土産をお渡しすると、みなさんすごい喜んでくれます。多分またNG出ちゃうと思うけど、レストランの手土産というと、イタリアンのお店って帰りにしけたパンを渡されること多くないですか(笑)。

 
一同 (爆笑)

 
「パンうまい」ってお店で食べてたら帰りに渡してくれて、ありがたいんだけど、酔っ払って帰って、翌日めちゃくちゃ硬くなってるんだよね(笑)。お土産ってすごい大事だなと。


そうですね。店側から見てると、みなさん“お土産交換”みたいなのやられてるじゃないですか、あの謎の文化(笑)。でもお店側が帰りに用意してくれるのはうれしいですよね。

 
だからうちの【クリスチアノ】で焼いている『エッグタルト』はめっちゃ喜ばれますもん。先に電話で、「帰りに手土産に」って予約されるお客様も多くて。

 
焼きたてのエッグタルトを持ち帰れるなんて、それは喜ばれますよ! 帰宅後も余韻に浸れますしね。

 
ご家族も喜んでくれるだろうし、いつも帰りが遅いお父さんでも、お土産がおいしかったら株が上がりますよね。

 
接待側にまわることは少ないですが、もし僕が設定するとしたら、僕が好きなお店へ連れて行くと思います。込みいった話なら個室がいいパターンもあるけど、自分をわかってもらうためには、自分が好きなお店に一緒に行って、その人も好きになってくれるかは大事なポイント。やっぱり僕は仕事をする上で、自分の考え方や想いに共感してくれるクライアントさんだったらいいなと思っていて、そこの感覚が全然違うと、仕事上でもどこかで話が合わなくなるだろうし、相手もいいお店だと感じてくれると、波長が合うのかなと感じるので、とりあえず一回ご飯でも、みたいな一発目は、自分がいいと思うお店に連れて行くと思います。
















僕ら料理人は、「どこ連れて行ってくれるんだろう」みたいなプレッシャーがあって、けっこう緊張しますよね(笑)。

 
焼れで実際に行ったのは【酒井商会】。酒井君が目の前の席でいろいろやってくれるのも見られて、やっぱり連れて行った相手も「すごくいいお店ですね」ってなってくれて、そうすると、ご飯もおいしい、お酒も進む、仕事の話からくだらない話まで進んで、「じゃあなんか前向きに色々とお話ししましょうよ」って。次にプロジェクトをリアルに進める段階になったら、落ち着けるホテルの中でも、レストランの個室で資料を広げて、っていうのもいいですよね。あと【羊SUNRISE(ひつじサンライズ)】も、羊肉なのでもちろん好き嫌いはあると思いますが、お店や食材に対して熱量があるんで、「いろいろ食べ比べられて面白いですね」っていわれたことがあります。お店側が焼いてくれますし。

 
確かに【酒井商会】ね。俺は【創和堂】って書いてた(笑)、あそこの個室もいいし。

 
店づくりが上手ですよね、酒井君は。




















(後編へ続く)
撮影 = 清水 伸彦 インタビュー・原稿=藤井 存希 編集=郡司 しう


記事で紹介されたレストラン一覧
◆「デートにオススメのお店」◆
1. 【THE APOLLO】銀座/ギリシャ料理(掛川シェフ)
2. 【YAUMAY】丸の内/中国料理・点心(掛川シェフ)
3. 【JULIA】外苑前