ヒトサラ10周年記念企画

「シェフがオススメするお店」特別座談会

Vol. 2(前編)

“料理人の顔が見えるグルメメディア”をコンセプトに10年目を迎えたヒトサラでは、大好評企画「シェフがオススメするお店」座談会を、京都でも開催!京都【cenci】坂本健シェフと、神戸【メツゲライクスダ】楠田裕彦シェフ、新潟【里山十帖】桑木野恵子シェフの3人が、オススメするお店とその理由を語り合います。

全5テーマのうち、前編では「ホスピタリティが素晴らしい」「プロとして衝撃を受けた」の2テーマで各シェフが、本当は教えたくない全国の名店を語ります。

ヒトサラのYouTubeチャンネルでは、記事には載せられなかったトークも収録されているので、ぜひご覧ください。

参加シェフのプロフィール

坂本 健シェフ
京都・岡崎のイタリア料理店【cenci】シェフ。熱い思いを胸に料理に向かう姿勢は、海外からも高く評価され、2021年の「アジア・ベストレストラン50」では91位にランクイン。

楠田 裕彦シェフ
神戸・芦屋のシャルキュトリ専門店【メツゲライ・クスダ】オーナーシェフ。本場で磨いた技術から繰り出されるシャルキュトリは、全国にファンがいるほど。日本を代表するシャルキュティエ。

桑木野 恵子シェフ
新潟県・魚沼のオーベルジュ【里山十帖】の料理長。地域に根付く、食文化、風土、雪国の風俗を表現する、滋味深いローカルガストロノミーが人気を呼び、国内外からゲストが訪れる。

↓座談会動画はこちら!

「スタッフ全員が楽しんで働いているかどうかで、同じ料理でもおいしくも、まずくもなる」(坂本)

――お店が京都、神戸、新潟と距離はありますが、3人のシェフの接点は?
それぞれ2人で飲みに行ったりはしますが、3人で行ったことはまだないですよね。楠田さんとは、僕が【cenci】をオープンする前の2014年に、楠田さんの【メツゲライクスダ】に一日、研修に入らせてもらって。

 
コンクール前で忙しくて全然構えなかったけどね(笑)。

 
初めてお話させてもらってたのは、16~17年前かな。

 
私は楠田さんとは最初イベントでお会いして、やはり去年【メツゲライクスダ】に研修で行かせていただいて、あとうちの【里山十帖】の社員研修をお願いしたり。

 
レストランだと、肉の加工はあまりやらないからね。 

 
桑木野シェフとは、【里山十帖】へ伺ったときに連絡とったのが最初かな?

 
そう、坂本シェフに来ていただいて。畑にブルーベリー摘みに行きましたよね。

 
畑とかアテンドいただけるのは嬉しいですよね。

 
















――まずは、シェフの皆さんが思う「いいお店の条件」をお伺いできますか。

 
僕の場合は、シチュエーションで選ぶことが多いです。雰囲気や店主、スタッフも“自分好み”ってところが大きいかな。

 
僕も、空気感は重要だと思っていて、スタッフが楽しそうに働いているかどうか。それで同じ料理でもおいしくなったり、まずくもなってしまいますね。

 
“美味しい”のは絶対ですが、雰囲気やインテリア、料理などの要素が同じ世界観なのかどうかは大切ですよね。統一感のあるお店は、入ってすぐに「ここはいいお店だ!」って思います。

 

「おいしさが倍増するような、調味料的なひと声」(坂本)

――居心地の良さ、大事ですね。今までで「ホスピタリティが素晴らしい」と感じたお店をお伺いできたらと思います。
“気が利く”って大事。お水を注ぎに来てくれるタイミングや、何か落としたときにすぐ気づいてくれるとか。
例えば新米のスタッフでも、スッとしぜんに料理の感想を聞いてくれるとか、毎回水を注ぎに来てくれるとか。小さな部分が意外とお店の空気をよくしているというのは感じますよね。
できる子はスッとできますもんね。
そういう子は、面接でも質問の真意を汲みとって答えられる子が多い気がする。面接受けに来てくれる人は、いっぱいいないけど(笑)。
いや、たくさん来るでしょ?
【cenci】に応募なかったら、どこも来ないですよ(笑)
いま、厨房募集してるんで、来ますか?
勘弁してください(笑)。


東京・神宮前の【傳(でん)】さんは毎回予約のときから、すごいって思います。根掘り葉掘り聞くわけでもなく、さらっと聞かれるだけなのに、行ってみると「どうしてそれがわかったんだろう」って感じる。 

たまに、シチュエーションや相手のことしつこく聞かれることありませんか(笑)!?  もちろん、アレルギーとか大事なことは聞いた方がいいですけど。
僕も、携帯に【傳】ってメモってました。以前、イベントでご一緒してお話を伺ったんですが、女将さんがていねいにコントロールされている気がします。

例えば、常連さん予約の候補日を聞いておいて、なるべくゲスト同士のトーンを合わせるように調整しているらしいです。よく会話される方と、静かに食事される方を一緒にしないようにって。

それに加えて、長谷川シェフはお客さまに対する接し方が本当に上手で、これが人気の理由だってよくわかりました。
店主のホスピタリティとしては、【草喰 なかひがし】も、心をつかまれる感じ。
確かに! 行った人はみんなわかりますね、その感じ。
完全に中東劇場ですよね(笑)。去年、大将が不在のときに伺って、メニューもお弟子さんのギャグも全部同じなのに、なんか違うんです。大将がいるといないで、満足度が変わっちゃう。
松茸ごはんを出すときの、「ちょっと、待つたけ」っていうギャグが聞きたくて、こっちも求めちゃう感じ(笑)。それでおいしさが倍増するような、調味料的なひと声ですよね。
そうそう(笑)
京都だと、店の近所に【山元麺蔵】さんっていううどん屋さんがあって、いつも行列してるんです。でも奥さまが待たせるのが、本当に心苦しいみたいで、お茶を配ったりしてケアしているんです。そういう気遣いが全体に感じられて、すごくいいなって思いました。
――気遣いって、マニュアルやルールですることではないですもんね。


 

「美味しいを超えて、鬼迫すら感じる」

(桑木野)

――プロとして、衝撃を受けたお店はいかがですか?
僕は京都だとやっぱり【緒方】さん。びっくりしたのが「ほうれん草のおひたし」に、熱々の胡麻が散らしてあったんですよ。炒りたてで香りが立っている胡麻。
へ~!おいしそ!
昔からある「おひたし」が、胡麻が熱々で香りを放っているだけで、料理の見え方がこんなにも変わるのかと驚きました。定番料理でも、最新機器を使わず温度や食感を変えるだけで、これだけ衝撃を与えられるんだと。
私は、宮崎の【きたうら善漁。(ぜんりょうまる)】さんに、衝撃を受けました。「魚がおいしいお店だよ」と聞いて行ったんですが、そこで食べたサツマイモと茄子がめちゃめちゃおいしくて。
――魚じゃないんですね(笑)。
いや、魚ももちろん(笑)。食材を生かすのに、すごくおいしい魚のだしを使っていて、そのだしに「ここまで突き詰められるなら、これでいい」という感覚を教えてもらった気がします。
食材の一番いい瞬間というか、地方ならではの料理に出会えると、やっぱり感動しますよね。
僕は、大阪の【La Cime】さん。食材の合わせ方も新鮮で、デザイン性があってすごく美しい。大きな衝撃を受けましたね
高田シェフのお料理はアートとしても美しいし、食べてもおいしい。ベストな温度帯で料理を仕上げていて、あのバランス感覚は本当に衝撃的ですね。
コースの中でのハーモニーが考えられてますよね。温度高めで香りが立ち上がってくるものと、冷たくして口に入れた瞬間に食感が変わるもの。すごく緩急がある。オープン当初、噂になって料理人がかなり行ってましたよね。
高田さんの料理って、行くたびに変化してません? タイ、中国とか、多国籍な要素も入ってきたり、でもアーティスティックで一目で高田さんの料理ってわかる……
そう。話をすると、つねに勉強しているのがわかる。本人は照れて「してない」って言うけど、夜中までずっと今でも勉強してる。


和歌山【villa AiDA】の小林シェフも、素晴らしい感性をお持ちですよね。料理人的には、食材の組み合わせってもう目新しいものそんなにないだろうって感じなのに、【villa AiDA】に行くと、それが甘かったと思わされる。

自分で野菜やハーブを育てて時期ごとの味の違いを熟知しているからこそ、できるのかなって思います。
最近、旅先でよかったのは、香川・高松の【寿司 中川】という寿司屋さん。地元の魚を知り尽くしているから、魚に合わせてシャリに温度差をつけていて、最後まで面白かったですね。
それでいうと、僕は富山【鮨し人】が好きでしたね。店に到着するタイミングで米を炊いて、そこから人の舌が甘みを感じる温度に下がるまで、米の味の変化に合わせてネタを合わせていくっていうグラデーションのようなシャリが楽しめる。

あと、富山繋がりで言うと、イタリアンの【ひまわり食堂】もめっちゃ好きです。すごく変わり者のシェフがやってるんだけど、料理はほんとおいしい。
おいしいですよね。私ひとりで行ったんですけど、ずっとふざけてらして、冗談なのかちょっとわかんなくて…でも面白い(笑)
イタリアンと謳っているけど、東南アジア系の料理もやったり。ただ、素材の使い方が本当にうまいので、ファンが全国にいます。
アーティストですよね(笑)
「【チェンチ】で聞いてきました」と伝えたお客さまに、「あ、ベトナム人シェフの所ね!」って言ってたり。紹介で来たって人に普通そんなこと言わないですよね(笑)。
富山だと【御料理ふじ居】さん。移転前からすごかったけど、新店はもう鬼迫すら感じるくらい……。生の香箱蟹をお酒に漬けた料理が、衝撃的なおいしさでした。
いい店いってるよね……俺も連れて行ってよ。
いやいやいやいや……逆に連れて行ってください(笑)



撮影 = 西尾 温 インタビュー・原稿=藤井 存希 編集=郡司 しう

記事で紹介されたレストラン一覧

◆ホスピタリティが素晴らしいお店◆
1.【傳】東京都・神宮前/イノベーティブ(桑木野シェフ・坂本シェフ)
2.【草喰 なかひがし】京都府・元田中/日本料理(楠田シェフ)
3.【山元麺蔵】京都府・岡崎/うどん(坂本シェフ)


◆衝撃を受けたお店◆
4.【緒方】京都府・四条/日本料理(坂本シェフ)
5.【きたうら善漁。】宮崎県・延岡/日本料理(桑木野シェフ)
6.【La Cime】大阪府・本町/イノベーティブ(楠田シェフ)
7.【villa AiDA】和歌山県・岩出/イノベーティブ(坂本シェフ)
8.【寿司 中川】香川県・高松/寿司(楠田シェフ)
9.【鮨し人】富山県・西中野/寿司(坂本シェフ)
10.【ひまわり食堂】富山県・荒町/イタリア料理(坂本シェフ)
11.【御料理ふじ居】富山県・東岩瀬町/日本料理(桑木野シェフ)