パリでオープンした【ステラマリス】でミシュランの1つ星を獲得し、日本におけるフレンチの第一人者となった吉野氏と
創業130年を誇る老舗【銀座寿司幸本店】の四代目でありながら、伝統を更新していく杉山氏。
フレンチと寿司、それぞれの立場で料理界を牽引する銀座の両巨匠に、
プロの料理人が選ぶ「ほんものの店」と出会う意義について、語っていただきました。
――お二人の考える料理哲学とはどんなものなのですか。
吉野:
僕は1997年から15年ほどパリの8区で、フランス料理のレストランを開いていました。 2003年には、日本でも2軒のレストランをオープンして、フランス料理一筋に歩いてきたんです。時代の流れを捉えながらも、僕の料理の99%はエスコフィエのレシピを基礎にしたクラシック。このベースをはずしたら、フランス料理ではなくなる、と僕は思っています。
杉山:
私は【銀座寿司幸】の4代目。江戸前のにぎり寿司は1790年に考案されたといわれ、当時から〈酢飯を使う、魚介を乗せる、ワサビや辛子を入れる、醤油をつけて食べる〉という原則は変わっていません。ただ、伝統を忘れずに、時代を見極めて新しい風を吹き込んできたから、寿司は現代まで生き残ってきたのだと思っています。
吉野:
料理人のたゆまぬ向上心や探求心、培った舌や知識、技術が、伝統に命を与えてきたんですよね。
杉山:
それに、カウンターは"口説きの場"だと思うんです。男女の口説きだけでなく、商談でも、上司と部下の会食でも、家族の祝いの食事でも。誰かの心を掴み、〈口説き〉を成功させるための場。それをうまくサポートすることも、寿司カウンターに立つ料理人の大事な仕事だと考えています。
杉山氏オススメの【白鷹】
吉野氏オススメの【炭火焼鳥 そかろ】
――お二人にとって、良い店、心惹かれるお店とはどのようなものですか?
吉野:
僕の店では、料理人は基本的に裏方ですから、お客様の情報はサービスマンから伝わります。『今日は体調があまりよくないみたい』と聞けば、あえてひと皿抜くことも。おいしいのは当たり前で、常にプラスαのサービスが大切です。
杉山:
そういう気配りがあるかどうかが大切。普通の料理を普通に出す居酒屋でも、心惹かれる店はある。居心地がよくてわがままがきく店は、自ずと人を惹きつけますよね。
吉野:
人気店でも、最初の料理が出てくるまでに30分以上もかかる店があったりすると、僕はデセールも食べずに出てきちゃう(笑)。
杉山:
私は、仲間内でもエンゲル係数が高いと自負しているんです。先日も岐阜の【開花亭】に、日帰りで鮎を食べに行ってきました。
吉野:
【開花亭】って、中国料理の?
杉山:
古田等さんがオーナーシェフの店です。ここの鮎は、恐ろしく手間のかかったスペシャリテです。
吉野:
独創的な料理を出す店だと聞いています。気になっているんだけど、なかなか行く機会がなくて。杉山さんオススメの店なら、さらに行ってみたくなりましたよ。
杉山:
料理人同士って、同じ店が気になっていたり、常連だったりすることが、意外と多いんですよね。
吉野:
「自分ならこんなことはしない」「こういう味が好き」といった、料理人ならではの視点や感性で店を選んでいるからでしょう。
杉山:
最近は、一般の方もブログなどでレストラン評を行っていますが、私は、それは悪いことではないと思っています。
吉野:
料理人が考えさせられ、反省させられたりもしますからね。
杉山:
ただ、受け手がそれに踊らされないことが大事ですよね。悪く言われたら、店によっては死活問題になりかねない。小さい店だと潰れてしまうこともある。良く言われても、お客様が殺到して、常連さんが入れなくなって悲鳴を上げている店もありますし。
吉野:
そういう時代になったということでしょうが、やっぱり信頼できる料理人が「いいよ」という店は、ハズレないことが多いですね。
杉山:
料理人は自分の味覚ができあがっていますから、塩梅ひとつにも自分のモノサシを持っている。「好きな店」は、細部までクリアした店、ということは言えますよね。
吉野:
「自分の舌や感性に合う」というのは、よく行く店の第一条件。僕はチャレンジしている店、面白い試みをやっているシェフなんかはどうしても気になって、通ってしまいます。シェフの顔が見えるレストランは、友だちにも教えたくなりますよ。僕らは料理人だから、料理店に対しては厳しいし、わがまま。
杉山:
そうですね。だから、料理人がオススメするお店は、だいたいが良い店だとは思いますね(笑)。