京都の食材を生かした、京都発のイタリアンを着想し、今最も勢いのある笹島氏と
創業400年の老舗料亭【瓢亭】の15代目。京都の懐石料理を国内外を問わず、発信し続けている髙橋氏。
同じ京都という地で、イタリアンと日本料理、それぞれの料理界を牽引するお二人に、
プロの料理人がオススメするお店選びの基準について、語っていただきました。
――お二人は京都という同じ地で、料理界を牽引されていますが、境遇は全く違いますよね。
笹島:
僕は2002年12月に、京都から発信するイタリア料理を目指して【イル ギオットーネ】を開店した一代目です。そんな僕から見ると、髙橋義弘さんのように京都老舗料亭の15代目というのは、大変うらやましくもあり、同時に「大変だろうな」とも思います。
髙橋:
確かに、自由に料理を作りたいと思うことはありますよ。でも、お客さまは、代々受け継がれてきた【瓢亭】の味や空気感を楽しむために来てくださるわけですから、勝手なことはできません。
笹島:
とはいえ、伝統も変わっていかないと、時代に取り残されてしまいますよね。
髙橋:
そうなんです。そのさじ加減が大切なのだと思います。
――お二人が、つい足を運びたくなるのはどのようなお店でしょうか。
笹島:
良い店は、常に“蘇生”している気がするんですよ。ホッとする安心感とワクワクするような緊迫感のバランスの良い店が、時代の中で生き残っていく。
髙橋:
1回目は好奇心で行きます。ただ、そのときは「いいな」と思っても、2回目につながらないことも多い。店としては、2回目につなげることが大事ですよね。
笹島:
それを左右するのは、やっぱり店主や店のキャラクターだと思います。店主のアイデンティティが伝わってくる店には、つい足を運びたくなります。
髙橋:
僕は、「この人は料理が好きなんだな」と思える人の料理が好きです。例えば、【ラ フィネス】の杉本敬三さんは、一生懸命料理についてしゃべってくださる。それを聞くのは、とても楽しいです。
笹島:
店側が楽しんでいるのが伝わってくる店って、いいですよね。そういう店だと、少しくらいミスしても、「チッ」と思わない(笑)。僕は、京都・祇園の「レストランよねむら」のオーナーシェフの米村昌泰さんとは同じ年で、東京に初出店したのも同時期だったのでシンパシーを感じているんですが、彼の料理は奇抜なんだけれど、奇抜に感じない心地よさがあるんです。
髙橋:
安定感がありますよね。久しく行っていないけど、お名前をお聞きしたら行きたくなりました(笑)
髙橋氏オススメの【てんぷら 近藤】
笹島氏オススメの【リストランテ アルポルト】
――お客様に対しては、どのように接していらっしゃいますか。
笹島:
最近は情報が氾濫しすぎているので、料理に関する情報をたっぷり頭に詰め込んでレストランに来る人も少なくありません。料理を出せば、「ああ、これね」とすでに知っている反応。すっかりネタバレしているんです。これって、料理人としては少し辛いですよね。
髙橋:
やっぱり、その場での驚きや感動が薄いですから。もう少し広いスタンスで受け入れてくださると嬉しいのですけれど。
笹島:
そうしていただければ、料理人も伸びるんですよね。やっぱり、実際の経験値が自分の力になると思うんです。だから、とくに若い人たちには、ある程度自由に経験を積んでいってほしいと思います。
髙橋:
最毎年シンガポールで行われる「アジアのベストレストラン50」に行ったことがあるんです。 招待されたわけではないので、プライベートで(笑)。そこで、招待シェフや若いスタッフのやりとりを聞いているだけでも、「このシェフはこんな指導の仕方をしているのか」などと、とても触発されました。 自分の店にもぜひ還元させようと思いました。広い世界で人と会ったり、体感したりすることはとても大事ですね。最近は、一般の方もブログなどでレストラン評を行っていますが、私は、それは悪いことではないと思っています。
笹島:
料理人同士って、ジャンルは違っても、基本的には同じことを追求しているから、普通の人が感じるよりも、もっと深いところまで感じ取れてしまうのだと思うんです。その嗅覚で好きな店を嗅ぎ分ける。ですから、上質の料理人が「いいよ」という店は信用できるかな、と思います。紹介するほうも、これはという店しか紹介しないし、プライドもありますから。
髙橋:
そうですね。味覚は経験ですから、その意味では料理人の舌は信用できると思います。自分も料理人だからこそ、出されたものは真剣に食べますし、作り手の思いをきっちり受け止めようとします。そうやって選んだ店は、だいたいが良い店なのではないでしょうか。