クラシカルな素材に繊細かつ独創的なフレンチを発信し、5年連続ミシュラン一ツ星を獲得した髙橋氏と
2014年イギリスの高級グルメ雑誌「FOUR」主催の世界の若手ベストシェフに選ばれた、新進気鋭のシェフ、兼子氏。
フランス料理界の明日を担う若きシェフのお二人に、プロの料理人が選ぶ「ほんものの店」について語っていただきました。
――料理人の方々の舌への信頼は非常に高く、影響力は大きいです。お二方が影響を受けた、信頼するお店や料理人の方はいらっしゃいますか?
兼子:
僕は2年間フランスで修業し、帰国して3年後の2012年に【ラス】を開店しました。この店名には「第一人者」という意味があって、「つねに挑戦者であり、先駆者であれ」というスピリットが込められています。パリでは、アラン・サンドランスさんが三ツ星を返上して開いたレストラン【サンドランス】で修業したのですが、そこで学んだのは、時代に挑戦し続ける精神と行動。彼のように、つねに変化を受け入れながら世間に向けて何かを発信していける店でありたい、と思います。髙橋さんは7月に【ル・スプートニク】を開店されましたが、オープンにあたって影響を受けた店はありますか。
髙橋:
僕は3年かけてフランスのレストランやビストロ、ブーランジュリー(ベーカリー)、パティスリーを回って、専門分野を掘り下げる形で修業しました。各々の場で、様々な国の人たちと働き、考え方の違いに触れました。その結果、セオリー通りでなく自由な発想でいいということを学びました。その影響は大きいかもしれません。実は、スティーヴ・ジョブズの考えもすごく好きで、極論ですが、「マーケティングはいらない。魅力的な料理があればそれでいい」という店を目指しています。
兼子:
僕はフランス料理の魅力は、進化だと思っているんです。長い歴史の中で、高揚感のあるものを提案してきたのがフランス料理で、日本料理などに比べると、大きく変化し、他分野との垣根がなくなってきている。髙橋さんの料理はまさにそうですよね。今まで【ル・スプートニク】のような店はなかったと思うし、注目している料理人も多いです。
髙橋:
人に注目されるような個性のある料理人に憧れ、目指してきたので、同業の方からそう言われるのは嬉しいです。ただ、おもしろい料理を考えるのは好きですが、奇をてらうのではなく、食材の本質を大切にし、自分の理想の味に近づけることに、徹底的にこだわっています。
髙橋氏オススメの【ESqUISSE】
兼子氏オススメの【トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ】
――お二方が通うお店の選択基準についておしえてください。
兼子:
当たり前だけど、おいしいというのは大前提ですよね。僕は、皿ごとにコンセプトが違っていいと思っていて、おいしいだけでもつまらないから、食感の楽しさだったり、色彩の美しさだったり、緩急をつけて出すようにしています。伝統のいいところは残しつつ、時代に合わせて変えていく。その精神こそがフランス料理であり、大事だと思います。
髙橋:
その進化の過程にいられたらいいなと思いますし、そうであれば店の評判も自然に伝わっていくだろうと思います。それが僕の理想ですが、【ラス】は、すでにそうなっていますね。どんどん斬新な方向へ向かっていくし、発信力も強い。
兼子:
ありがとうございます。同じ料理人からの評価は嬉しいですね。これまで自分の成長に合わせて挑戦してきたことが、結果として注目され、評価につながったと思うので。
髙橋:
僕が個人的に惹かれる店は、個性がはっきりしていて、料理人のパワーを感じられる店なんです。例えば神楽坂の【虎白】の料理長、小泉功二さんの料理は、食べるたびに高揚感があって、いつもエネルギーを感じます。
兼子:
評判はうかがっていますが、髙橋さんから聞くと、よけいに行ってみたいです。僕が店を選ぶ基準は、その時の興味とかシチュエーションで異なります。おいしい料理を出す店はたくさんありますが、確かに、高揚感とか空気感も、おいしさを決める大切な要素ですよね。僕が店づくりで参考にさせていただいた青山の【トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ】もまさにそう。気持ちを高揚させる空気感は芸術的だと思います(笑)。
髙橋:
料理人であっても、味の好みや感性はそれぞれですし、兼子さんがおっしゃったように、その時々で店を選ぶコンセプトは多少変わると思いますよね。料理に煮詰まって、刺激が欲しいときには、僕は銀座の【エスキス】に行くんです(笑)。
兼子:
そう考えると、プロの料理人にとって、いい店選びの条件は、「店主の個性がきちっと表現されている」ことなのかもしれませんね。