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シェフがオススメするお店 特別対談 vol.5

成田 一世 氏 エスキス 「新しい味を追求し続ける若い料理人の店に、心惹かれます」 辻口 博啓 氏 モンサンクレール 「理論に裏付けられた一流の技術、味を持つ店には通ってしまう 」 成田 一世 氏の料理人情報を見る 辻口 博啓 氏の料理人情報を見る

フランス、NY、台北。世界を股にかける名パティシエ、成田氏と2015年に
インターナショナルチョコレートアワード世界大会で金賞受賞したトップパティシエの辻口氏。
パティスリー界のリーダーならではの先見性や情熱、行動力を共通の言語で語る二人に、
プロを惹きつける店選びの基準を聞いた。

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「味でも店でも、心惹かれる要素には共通項がある」(成田)

――パティスリー界を牽引するお二人が考える、お店を選ぶ基準とは何でしょうか?

成田:

2015年のインターナショナルチョコレートアワード世界大会で、金賞、銀賞、銅賞を受賞されましたね。おめでとうございます。

辻口:

ありがとうございます。【ル ショコラ ドゥ アッシュ】を六本木ヒルズにオープンしてから13年間やってきましたが、15年から銀座にステージを移し、国際的なショコラの大会にのぞんだ結果です。また14年は、さまざまな優れたショコラと出会ううち、豆の選定や発酵、ローストなどの過程で引き出されるカカオの個性に大変興味がわき、エクアドルまで行ってきました。

成田:

僕も、ベネズエラのチュアオと出会い、その豆の育つ環境に興味を持つようになり、豆に携わるとオリジナリティを出せるということがわかってから、心が動きましたね。一昨年はカカオ豆を探しに、パプアニューギニアに出向きました。

辻口:

ショコラは4000年以上の歴史があり、これほど人間が長く関わってきた素材はないのに、発酵食品であることは、意外と知られていませんよね。豆の産地によって味が違うし、発酵次第でいろんな要素を出せる。もともとは液体の飲み物で、固形になってからは、まだ170年ほど。そう考えると、新しいスタイルが生まれやすい、可能性に満ちた素材でもあると思うんです。

成田:

僕は、人がおいしいと感じるものには、共通項があると思っています。発酵もそうで、カカオ豆の発酵にはとても興味があります。例えば、吉野建シェフのウサギ料理の、内臓が発酵する過程で出る香りは、カカオ豆の発酵の香りとよく似ています。おそらく、微生物の発酵の仕方が似ているんでしょうね。

辻口:

僕は「ショコラは世界共通の言語」と言っています。人を惹きつける香りや味覚は、きっと人類のDNAに組み込まれている。インターナショナルチョコレートアワードで、納豆ショコラが銅賞を受賞したことは、その一例かなと思います。外国の審査員たちがこの味を受け入れたのは、発酵がもたらす旨味をおいしいと感じたからだと思っています。

成田:

そういえば、エポワスチーズの表面についたオレンジ色のカビは、納豆菌の一種ですからね。菌が発酵させる食材や香りは違っても、人間が持つ味覚のセンサーに違いはないということかもしれません。そう考えると、「味覚」の相性は、店を選ぶ重要な基準になっていますね。

辻口:

どういう意味ですか?

成田:

例えば、ヘビースモーカーのシェフはドライマウスなので、乾いた料理を作りがち。ソースのない、水分が少ない皿が多い。逆に、甘党や酒をよく飲むシェフは、味を探しに行くような水分の多い料理が多い。自分が選ぶのは後者ですね。

辻口:

相性とは、違うかもしれないけど、僕の故郷の石川県で【懐石つる幸】を営む河田康雄くんの料理は素晴らしい。同い年の彼は、地元・金沢と自分をしっかりと見つめることができている。加賀きゅうりの香りを活かした粟とのマリアージュとかは絶品。鴨の扱い方も最高にいい。

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成田氏オススメの【スブリム】

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辻口氏オススメの【懐石つる幸】

「理論に裏付けられたオリジナリティは、シェフたちをその店に惹きつける共通言語ですね」(辻口)

――お二方がよく足を運ぶお店の共通項はなんですか?

成田:

若い人たちの店によく行きます。自分の味覚はこれ以上変わりようがないので、例えば、15年10月に新橋にオープンした【スブリム】の加藤順一シェフのような、次の味を追求し、探している若いシェフががんばっている店に魅力を感じます。

辻口:

それは僕も同じです。若い人たちがやることはおもしろい。でも、銀座の【すきやばし次郎】の、伝統を極めたシンプルさも好きです。1週間に8回行ったことがある(笑)。通うほどに、そのすごさがわかる。シャリの温度やにぎりの塩梅、ネタの香りの広がり、そのすべてがきちんとした理論の上にある。そういう店には、否応無しに惹かれてしまう。

成田:

理論といえば、銀座【鮨あらい】もそうです。店主の新井祐一さんは、【銀座久兵衛】と四谷の【すし匠】で修行されて、まだ若いけれど、技術を受け継いでいる部分と、自分の思いを込めている部分の仕事がはっきりしている。修業した店をリスペクトしているからこそ、まったく同じものは出さない。オリジナリティがあることも、店を選ぶときには重視しますよね。

辻口:

確かに、理論に裏付けられたオリジナリティは、シェフたちをその店に惹きつける共通言語ですね。