目指すは米の頂点! ふくしまのオリジナル米「福、笑い」登場

「福、笑い」を栽培するJA福島さくら郡山地区本部の遠藤昭夫さん

“ふくしまから、日本一の米をつくりたい”という想いで育成された米がある。それが新しいブランド米「福、笑い」だ。開発に着手したのは2006年。14年後の2020年に初めて試験栽培が行なわれ、今年から本格的な作付けが始まった。収穫直前の9月下旬、「福、笑い」を育てている遠藤昭夫さんに会うため福島県郡山市へ向かった。
郡山駅からクルマで20分。見渡す限りどこまでも田んぼが広がっている。ふくしまは日本屈指の米どころなのだ。その一角に遠藤さんの田んぼがあった。遠藤さんは、JA福島さくら郡山地区本部に所属する米農家。点在する計10.8ヘクタール(東京ドーム約2個分)の田んぼで米を栽培しているという。

これがふくしまで生まれた、日本一の米を目指す「福、笑い」

「今年は『福、笑い』の他、コシヒカリ、ひとめぼれ、こがねもち(もち米)を育ててきました」
 日本一の米を作りたいのであれば、すべての田んぼに「福、笑い」を植え、収穫量を増やすべきではないのか。
「個性的な食感と食味が持ち味の『福、笑い』は生産制限があり、うちでは2枚の田んぼで栽培しています」
「福、笑い」は収穫量ではなく、品質と食味で日本一の米を目指しているという。そのために選ばれた生産者だけが「福、笑い」の栽培を任されている。そのひとりが遠藤昭夫さんだ。

遠藤さんが我が子のように大切に育ててきた「福、笑い」

品質、食味はもちろん安全性でも「福、笑い」は、日本一を目指す

遠藤さんの作業場には脱穀機などが鎮座。その作業の進行具合なども手元のスマホに送られてくる(後述)

 遠藤さんは昨年の試験栽培から「福、笑い」にたずさわっている。21歳(1974年)で就農し、47年間米を育ててきたその実績が認められ、「福、笑い」の栽培農家に選ばれたのだ。
「認証GAPを取得しました」
 GAPは農業生産工程管理の意味で、Good(良い)、 Agricultural(農業の)、 Practice(行ない) の略語。食の安全性を確保できる生産者や団体に与えられるこの認証GAPがなければ、「福、笑い」を栽培できない。品質と食味はもちろん、安全性の上でも「福、笑い」は、米の頂点を目指しているのである。
 昨年試験栽培を任された農家は全県でわずか13名。今年本格的な栽培に従事したのは、全県で61名。さらなる評価や新しい味覚、新食感を探求し、14年の歳月をかけて誕生した「福、笑い」は、少数精鋭の農家の手で作付けが行なわれている。

食味や品質基準などを満たさなければ、「福、笑い」と名乗ることができない

これが「福、笑い」のパッケージ。 日本の原風景を感じさせるあたたかいイラストが描かれている

 5月に田植えをし、10月頃収穫を迎える。けれど、苦労して育てた米をすべて「福、笑い」の名で販売できるわけではないと遠藤さんはいう。それはどういうことか。
「玄米タンパク質含有率が6.4%以下、ふるい目1.9ミリ以上でないと『福、笑い』と名乗ることができません」

遠藤さんが長年使ってきた有機肥料。「使いすぎるとタンパク質の数値が上がるため、私は一度しか与えません」

 「肥料を与えすぎるとタンパク質の数値が上がります。うちでは長年有機肥料を使っているのですが、田植えのときにしか肥料を使いません。農薬を使用するのもこのとき一度だけ。できる限り“安心安全”な米作りを目指しています」
 昔は肥料の量はどんぶり勘定だったと遠藤さんは回想する。現在、遠藤さんは、農機メーカーが開発した農機と連動するICT(情報通信技術)を駆使した営農システムを活用している。肥料の量はもちろん、田んぼの水管理や籾殻の乾燥具合など、営農に関わるほぼすべての情報が逐一タブレットPCやスマホに送られてくるのだ。

左/遠藤さんはICTを活用した営農システムを導入。タブレットPCやスマホに送られてくる情報を米作りに活かしている 右/遠藤さんが栽培する土地も一目瞭然。常に管理が視認できて安心できる

 この営農システムを遠藤さんはいち早く採用した。パソコンに不慣れだったため当初戸惑いもあったが、いまではICTを積極的に活用している。「福、笑い」を栽培するすべての農家が営農システムを導入しているとは限らない。けれど、最新技術を活用することで玄米タンパク質含有率の管理など、米作りが数段進化したはずだ。
 ですが、デジタル技術がどんなに発達したとしても米を作るのは人間。お天道様と米農家の手腕がなければ日本一の米を作ることはできない。 「『福、笑い』はコシヒカリの子孫とひとめぼれの子孫を配合した品種で、栽培しやすいのが特徴です。草丈がコシヒカリよりも10センチ以上低いため倒伏しにくく、いもち病にも強く、管理しやすいです」

「『福、笑い』は味噌との相性がいい。でも、まずはそのまま食べてほしいです」

「今年も最初の一膳は『福、笑い』だけを味わいます。この米はモチモチ感が素晴らしいんです」

今秋収穫する「福、笑い」を、一番最初に誰に食べさせたいか遠藤さんに尋ねた。
「もちろん自分です(笑)。自分へのご褒美。去年は収穫した米をすべて農協に納め、30キロだけ戻ってきました。でも、母や親戚、農協などの関係者にお礼に配ったので、手元にはわずかしか残りませんでした。うちはガス釜で炊いているのですが、『福、笑い』は炊きあがりの香りも良かったです。最初の一膳はそのまま食べました。食感の良さが『福、笑い』の一番の特徴。粒が大きくてしっかりしていますが、ソフトでモチモチ感があります」

「『福、笑い』は冷めてもおいしいので、おにぎりやお弁当にも最適です」

 最後に「福、笑い」はどうやって食べるとおいしいか教えてもらった。
「子どもの頃、学校から帰ってくると自分で作ったおにぎりに自家製の味噌を塗り、漬物を持って遊びに出かけました。いまどきそんなことをする子どもはいないと思いますが(笑)。「福、笑い」は味噌と相性がいいので、味噌汁と一緒に食べるとうまい。味噌汁の具は大根のような季節の野菜が一番。豚肉の味噌漬けも合うし、野菜の味噌炒めと食べてもうまいです。もちろん魚との相性も抜群。でも、せっかくなら最初の一膳は、日本一の米をそのまま食べてほしいですね」

トンボの群れが舞う、長閑な田園はどこか懐かしい景色

明治の先達が築いた安積疏水が、米どころ郡山を築き上げた

左/猪苗代湖から続く水路52km、分水路78kmの安積疏水。あの大久保利通の尽力もあり、3年で完成した 右/猪苗代湖から注ぐ豊富な水量が米どころの大地を潤す
昭和10年に、疎水事業に尽力した大久保利通、伊藤博文、松方正義の御霊も合祀された”安積疎水神社”

 郡山はいまでこそ県下有数の米どころだが、古来より水利が悪く、不毛の地といわれてきた。明治政府は明治12(1879)年に安積疏水(あさかそすい)の工事に着手。潅漑や舟運のために土地を切り開き水路を設け、通水させるのが疎水だ。遠く離れた猪苗代湖から郡山に水を引く、国を挙げての一大プロジェクトだった。この大事業を後押ししたのが内務卿の大久保利通だ。夢半ばにして大久保は暗殺されたが、のべ85万人を動員し、着工から3年後の明治15(1882)年に水路52km、分水路78kmに及ぶ安積疏水が完成した。総経費は40万7,000円(現在の貨幣価値に換算すると約400~500億円)。また、約3,000ヘクタールの水田が造成されたことで、郡山は米どころになっていく。そしていまも遠藤さんをはじめとする郡山の農家は、安積疏水の恩恵に授かっているのである。

右手に山頂だけが見えるのが磐梯山。その南麓にある猪苗代湖から安積疏水で、引かれた水がいまも郡山の田んぼを潤している

 大久保利通の最期の夢だった安積疏水が、2016年「日本遺産」に認定された。NHK 大河ドラマ「青天を衝け」にも登場する大久保利通の偉業のひとつ安積疏水には、複数の見どころがある。安積開拓・安積疏水開さく事業のシンボル的構造物の「安積疏水十六橋水門」や疎水の落差を活用した水力発電所、人工の滝「麓山の飛瀑(ひばく)」などなど。明治の先達が完成させた安積疏水を見学して、米どころ、ふくしまの奥深い魅力に触れてみたい。
日本遺産ストーリー「あこがれの湖、安積原野へ」(出典:郡山市文化振興課)

米どころ、ふくしまの魅力を再確認できる田んぼアート

三春町のファームパークいわえの田んぼアート。2021年の図柄は明智光秀と帰蝶(濃姫)だった。来年は何を描くのか期待したい

 田んぼアートをご存知だろうか。田んぼをキャンパスに見立て、カラフルな稲を植えることで巨大な絵や文字を描く。それが田んぼアートだ。全国各地で盛んに行なわれているが、福島県下でも複数の農村で田んぼアートが創られている。そのひとつが、三春町上舞木にある自然公園「ファームパークいわえ」の田んぼアートだ。
「ここで田んぼアートが始まったのは2009年です。毎年5月に、地元の小学生も含む100人ほどの参加者が観賞用品種の稲やうるち米を植え、田んぼアートを制作しています」 と教えてくれたのは、運営委員会委員長の壁寸芳男(かべすよしお)さんだ。図案は毎年変わり、2020年は伊達政宗と政宗の正室、愛姫(めごひめ)、三春駒(郡山市西田町高柴で作られている木馬の郷土玩具)が選ばれた。2021年は明智光秀と帰蝶(濃姫)、三春町町章、三春駒が描かれた。
 米どころ、ふくしまならではの田んぼアートは来年も実施予定。「ファームパークいわえ」の田んぼアートを見学し、米どころの新たな魅力に触れてこよう。
「7月中旬から9月いっぱいが見頃です。ぜひ見に来てください」(壁寸さん)

問い合わせ / 三春まちづくり公社 / 0247-62-3690

撮影/渡部聡  文/中島茂信

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