四季折々の食材を使ってつくる、日本人向けのフランス料理
【玉木(Tamaki)】玉木 裕氏フレンチ
東京・銀座の路地裏に佇む、おいしい料理とくつろぎのひとときが楽しめる大人のためのレストラン【玉木】。昭和を思わせる、白を基調とした清楚な雰囲気のなかでいただくのは、日本人の口にあうフレンチをベースとした西洋料理。本場フランスでの修業時代に、大きな気づきと転機を迎えた玉木シェフのヨコガオに迫った。
四季折々の食材を使ってつくる、日本人向けのフランス料理
東京・銀座の路地裏に佇む、おいしい料理とくつろぎのひとときが楽しめる大人のためのレストラン【玉木】。昭和を思わせる、白を基調とした清楚な雰囲気のなかでいただくのは、日本人の口にあうフレンチをベースとした西洋料理。本場フランスでの修業時代に、大きな気づきと転機を迎えた玉木シェフのヨコガオに迫った。
学生時代にアルバイトをしていた西洋料理店で白衣を着て厨房に立つ料理人を見て憧れを抱き、卒業後に【神戸ニューポートホテル】で料理人としての道が始まる。8年在籍して料理長までつとめた後、数件のレストランを経て渡仏。しかし憧れていた本場のフランスで、玉木シェフは衝撃的な体験をすることになる。
「フランスへ行ってすぐの頃は、何を食べてもおいしくなかった。塩や酢など、どれも味がきつ過ぎて自分の口には合わないんです。それが1、2か月生活するうちに、汗のかき方や体臭が変化し、味覚もなじんできて、初めて料理をおいしいと感じるようになった。それからでしたね、本格的に現地の料理を学べるようになったのは」。
フランスと同じ食材・レシピでつくった料理が、日本に暮らす日本人の口に合うわけがない。それなら、日本の土壌で手に入る食材を使い、日本人の口に合うフランス料理をつくろうと思い立つ。
帰国後、ゴルフ場のホテルに併設されたダイニングの総料理長になるべく、あらゆるジャンルの料理を身につける必要があった玉木シェフは、原宿の【重よし】で和食の技術を学びながら、どうしたら日本人の口にあうフランス料理がつくれるかを考えた。
そして鰹だしに山菜、たけのこなど、日本で手に入る季節の食材を使い、素材の扱い方など、日本料理の技法を取り入れて、料理をつくることにたどり着く。例えばビーフシチューに添える里芋は、鰹だしで炊いて味を含ませた後に片栗粉をまぶして揚げる。魚は三枚おろしにした後、塩で身を引き締め、水と臭みをふき取ってから火を入れる。
和の技術を取り入れつつ、皿に盛られるのはフランス料理。こうして玉木シェフの「日本人のためのフランス料理」が生み出されていったのである。
【玉木】を代表する料理の一つに『ハヤシライス』がある。デミグラスソースを思わせる通常のハヤシライスとは一線を画しており、濃厚な味わいながら、軽やかな仕上がりとなっている。
このハヤシライスは、オープン当初から玉木に通ってくれている、ある有名作家の「昔食べた、懐かしい味のハヤシライスをつくってよ」という一言から始まった。試行錯誤を重ねること8回。従来の固定観念を取り払って生まれたのは、ケチャップの代わりにトマトペーストを使い、薄切り肉の代わりに牛の塊肉が入った、リッチな味わいのご馳走ハヤシライスだ。
肉は出身地が同郷の神戸ということもあり、応援の意味を込めて長きにわたって取引のある【神戸屋精肉店】の神戸牛と山形牛を使用。水分はフォン・ド・ボーと赤ワインのみ。飴色になるまで炒めた玉ねぎを、甘みとしてソースに加えてある。途中まではビーフシチューと同じつくり方だが、煮込んだ野菜を濾してソースにした後、マッシュルームと玉ねぎ、肉を加えてさらに1時間煮込むことで、さらに濃厚な仕上がりとなる。
煮崩れこそしていないものの、スプーンでホロリと崩れるほどに柔らかい牛肉は、口のなかでトロける味わい。じっくりと煮込まれているので、脂もしつこく感じずに食べられる。野菜など素材の旨みがたっぷりと染み込んだ濃厚なソースは、ご飯によく絡みながらも後味はあっさりとしていて食べやすく、まさに日本人好みの味付けといえる。
玉木シェフが目指しているのは、日本の四季を感じる食材を使用し、毎日でも食べられる、体に優しい日本人の口にあうフランス料理。「おいしいものが好きな人に、おいしいものを食べたい時に選んでもらえる店でありたい」と語る言葉の裏側に、静かに燃える料理への情熱が感じられた。
ホテルやレストランでフレンチを学んだあと、ゴルフ場のホテルに併設されたダイニングの立ち上げに参画するにあたり、あらゆるジャンルの料理技術を身につけなければならなかった玉木シェフ。フランスでの修業を経て帰国した後、3年の修業を積んだのが東京・原宿の【重よし】。ここのご主人である佐藤憲三さんから学んだことは、今でも自分の指針になっているという。
「料理は食材を重ねる足し算から最初は始まりますが、最終的には引き算になっていきます。このように余分なものはすべて排除し、必要なものだけを残すという姿勢を、佐藤さんから学びました。だから今でも皿の上には必要なものだけしかのっていないのです」。
華美な装飾などは一切なく、料理だけがシンプルに盛られた皿の上には、玉木シェフの研ぎ澄まされた料理哲学がある。
撮影/永友 啓美 文/ヒトサラ編集部
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