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田中 義和 氏
田中 義和 氏

素材と向き合い、足し算のフレンチにこだわる個性派シェフ

【モワルーズ】田中 義和フレンチ

東京・麻布に住む人が、一人で気軽に訪れる、地域密着型のフレンチレストラン【モワルーズ】。「引き算の料理」を主とする日本において、敢えて「足し算のフレンチ」にこだわり、素材を重ねることで生まれる美味を追求するのは、オーナーシェフの田中義和さん。素材に対して真摯に向き合い、実直な仕事でお客様の笑顔を誘う、ストイックな料理人のヨコガオに迫った。

Interview

湧き上がる疑問を解消すべく渡仏、フレンチの真髄を知る

クラシックな技法をベースに置きながらも、毎日飽きずに食べられるフランス料理を提供している、麻布十番のフレンチレストラン【モワルーズ】。小さい頃から料理が好きだったオーナーの田中義和シェフは、洋食のシェフがかぶる帽子に憧れ、まずはフレンチの料理人になることを決意。金沢の調理師専門学校を卒業後、金沢の【ニューグランドホテル】に入店して2年ほど修業を積んだ。その後、市内のフレンチで3年ほど研鑽を積み、技術は習得したが、フランス料理に対して疑問を抱くようになる。

料理人になりたての頃は、上の人に言われたことを、その通りに実行して覚えることに夢中だった。しかし経験を積むうちに、料理に対して知りたいことが色々とでてきた。伝統的なフランス料理を学ぼうと有名シェフの料理本を原書で読み、レシピ通りに料理をつくってみるが、食べるとまったく口に合わない。「フランス人は、本当にこんなものを毎日食べているんだろうか」。そんな気持ちが自分の中で大きくなった時、田中シェフは実際のところはどうなのかを現地で確かめたいと渡仏。

パリからスタートし、アビニョン、ボルドー、エペルネ―、シャンパーニュなど、あえて文化も言語も料理も異なる5か所ほどの地域を3年半かけて働きながらまわった。現地にいったシェフは各地で郷土料理を学びながら、仕事の合間をぬって日本でつくっていたフランス料理を、まったく同じように再現してみた。するとどうだろう。その味が大きく異なっていたのである。

伝統に革新を加えた田中流の足し算フレンチ

理由は「食材」。現地の野菜は個々の特徴が際立っている。組み合わせるとぶつかり合うように思えるが、素材を重ねることでそれぞれの良さがブレンドされ、一つの料理を構成していくのである。ソースのみならず、食材の使い方に対しても同様の考え方でつくられるフランス料理の真髄を体感したシェフは、帰国後、フレンチレストランとパン屋を経験して独立。フランスで目の当たりにした、伝統的なフレンチをベースに、現代フレンチを融合させた独自の料理を追求するようになった。

「日本料理が引き算の料理だとしたら、フランス料理は足し算の料理。この考え方は、素材を重ねるということも同じです。それによって、複雑かつ繊細な味わいの料理が生まれるんです。現在は本国の料理も変化と革新を続けています。ですから私はあえて正統派の良さをベースにした、軽やかな足し算のフレンチをつくりたい」と田中シェフ。

ハレの日の料理よりも、毎日行ける近所のレストランであることを目指し、必要以上に華美な盛り付けはしない。シェフは見ための驚きはないが、素材の良さがストレートに伝わり、毎日食べられる料理を追求しているのである。

素材を重ねて生まれる『さくら和牛ばら肉の赤ワイン煮込み』

そんな田中シェフのスペシャリテは、王道のフレンチに、独自のエッセンスを加えてあっさり仕立てた『さくら和牛ばら肉の赤ワイン煮込み』だ。

さくら和牛のばら肉に小麦粉をつけてフライパンでソテーし、旨みを染み込みやすくしてから鍋に移し、赤ワインで6時間煮込んでいく。隠し味にフォン・ド・ヴォーを少量加えるものの、基本的には赤ワインのコクと肉の旨みで仕上げるのがポイントだ。肉から出た旨みを、再び身のなかに戻す。味が浸透した肉は、途中で濃くなり過ぎないよう調整しながら煮込んでいく。そのため、味そのものは意外とあっさりしていて食べやすいのが特徴だ。塩茹でした野菜を添えて味わう、この料理は、素材の旨みを存分かつストレートに表現する、田中シェフならではの逸品だと言える。

日本の食材を使用し、素材本来の味を重ねあわせることで生まれる複雑かつ繊細な味わいを大切に、ソースや味付けで全体のバランスを調整する。素材を起点に構成し直すことで、田中シェフは本国で体感したことを日本でもクリアすることに成功したのである。「今の自分を100点満点で評価するなら、現在は60点。現状に満足せず、常に100点に近づけていきたい」と語る。彼はこれからも、すべてを少しずつ良いものにするために、真摯な姿勢で正面から食材と向き合い、勝負をし続けていくに違いない。

シェフの記憶に残るシェフ
~フランス料理の楽しさを教えてくれた料理人~

金沢で修業を積んだ後、フランスで3年半、イギリスで半年の経験を重ねた田中シェフが、これまでの料理人人生で最も影響を受けた料理人。それはフランス・ボルドーで1年間、修業を積んだ、【Jean RAMET】のオーナーシェフ、ジャン・ラメ氏である。

ジャン氏は実直な人柄で、何事にも常に全力投球の人。素材にも仕事にも正面から向き合い、決して自分の信念を曲げない強さを持っていた。そんな彼がつくるのは、素材そのものの味がストレートに出る、わかりやすい料理。そこには「お客様に食べて素直に美味しいと言ってもらえる料理を提供したい」というジャン氏の姿勢があったという。

田中シェフは、厨房でともに働くことを通じて、彼から「嘘や偽りのない仕事で、お客様に喜んでもらう」という姿勢、そして「料理人としてまっすぐであれ」という心意気を学んだそうだ。現在、【モワルーズ】に訪れるお客様の多くが、【Jean Ramet】と同じ、近所の人であることからも、その精神が受け継がれていることを伺い知れる。

撮影/飯田 悟 文/ヒトサラ編集部

シェフの裏ワザ

「美味のアクセントを添える「酢」の使い方」

田中シェフの料理には、ほとんどに「酸味」が加えられている。「酢を制するものは料理を制する」という言葉にもある通り、酸味は料理を美味しく味わうために欠かせない調味料。今回は家庭で効果的に酢を使うタイミングを教えてもらった。

<酢を加えるポイント>
・赤ワイン煮込みなどのどっしりとした料理を食べやすくする。
・濃くなり過ぎた味を緩和させ程よい味付けにまとめる。

<使用するタイミング>
・重厚な味の料理を軽く仕上げるには酢(あるいはレモン・酢橘など)を少量ソースに加える。
・濃くなり過ぎた料理の味を緩和するには(煮込み料理の場合)鍋に水と酢を加え、さらに煮込んで濃い味を薄めて浸透させる。

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