和歌山だけでなく日本をも代表する
クラシック・フレンチの継承者
【hotel de yoshino(オテル・ド・ヨシノ)】 手島 純也氏 フレンチ
クラシック・フレンチにおいて日本屈指の継承者と評される【オテル・ド・ヨシノ】の手島純也シェフ。その料理を求め、地元・和歌山のみならず大阪や東京からわざわざ訪れる食通が絶えない名店はいかにして生まれたのか。実直に古典フランス料理に向き合う、手島シェフのヨコガオに迫りました。
和歌山だけでなく日本をも代表する
クラシック・フレンチの継承者
クラシック・フレンチにおいて日本屈指の継承者と評される【オテル・ド・ヨシノ】の手島純也シェフ。その料理を求め、地元・和歌山のみならず大阪や東京からわざわざ訪れる食通が絶えない名店はいかにして生まれたのか。実直に古典フランス料理に向き合う、手島シェフのヨコガオに迫りました。
――手島シェフは、40歳前後の料理人においては、クラッシックなフランス料理の旗手と見なされています。
僕の場合は、その継承者でありたいと思っています。うちの吉野をはじめ、【ル・マンジュ・トゥー】の谷シェフ、【ラ・ブランシュ】の田代シェフ、【コートドール】の斉須シェフなど尊敬するフランス料理のシェフは大勢いますが、皆さん60代ですので、いずれ引退されるときがきてしまいます。彼らやその前の世代のシェフたちが、フランスで一生懸命学び、持って帰り、磨き込んだ日本における王道のフランス料理を突き詰めて、さらに下の世代に伝えていくのが自分の使命だと思っています。
――とはいえ、時代としては新しいものをつくる料理人を評価する風潮があります。
フランスから帰国したのが2007年なのですが、すぐ日本でミシュランが出版されました。今でもそうですが、当時から新しいスタイルをやっている方が評価されますね。ぼくも実はフランス帰りの料理人として、そういう方向をやるべきかと揺れていた時期もあったんです。ただ、3年目くらいに、その考えは全部捨てて、自分が若い頃からつくってみたいと思っていた料理、食べて感動した料理をつくっていこうと決心がつきました。そこから、店の評価も徐々に上がっていった部分があります。
――確かに、古典と言っても以前と食材も違うわけですから、同じつくり方ではダメですよね。
そこが現在の古典料理のもっとも大切なところだと思います。いかに本質を崩さずに、現代人が食べても美味しいと思えるところに着地させるか。どうしたって100年前のレシピでは、濃いし重たいんですよ。それをそのままつくったって美味しくはならない。でも、だからこそ、ぼくがつくる意味があるのかな?と考えています。本当に変らないものは、お客様は2回目食べたときには感動しないと思います。なので、変らないということは、変わり続けることだとも言えます。
――和歌山に来たことに、何か理由はあったのですか。
当時【hotel de
yoshino】でやっていたシェフが辞めたとき、自分が行きたいと挙手しました。東京で吉野の右腕としてやっていくことも料理人として魅力的な人生ですが、自分の力でどれだけできるか試してみたかったんです。
それに、食材の良さに惹かれた部分もあります。例えば、魚介類は、瀬戸内からも太平洋からも多岐に富んだ美味しい食材が手に入ります。ここ数年、西洋野菜をつくってくださる生産者も増え、車で10分もあれば車で畑に行けます。あと、ジビエに関しては、鹿や猪はものすごく良いものが獲れます。地方であれば、食材がどこでもいいわけではないのですが、和歌山に関しては間違いなくトップクラスの食材があり、しかもそれらがフランス料理向きであることも恵まれています。そういった食材に、トリュフやフォアグラなど、フランス料理に重要な食材を加えていくスタンスでやっています。
和歌山に来た当時は、同世代のシェフがどんどん表舞台に上がっていくのをみて、やっぱり東京でやっていたほうがスポットは当たりやすいのかなどいろいろ考えましたが、現在では来て良かったと強く思っています。移り変わりの激しい東京の流行に振り回されずに、少し距離を置いて俯瞰してみることができたことで、自分のスタイルを見つけられた側面はあると思います。
――こういった中規模の都市でお店をやることについて、特徴的なことはありますか。
それは、2つあります。まずは、ここでシェフをやっていきながら気づいたのですが、和歌山のお客様だと、高級店でフランス料理を生まれて初めて食べる方もいらっしゃるということ。ですから、この店で美味しくなかったり、嫌な経験をしてしまうと、フランス料理=美味しくないと思われてしまう可能性も高いわけです。そういった意味でフランス料理に対しての重責を担っていると自覚しています。
一方で、高級フランス料理店の需要がそこまで高い地域ではないので、和歌山のお客様だけでは成り立ちません。となると、お客様に東京や大阪からわざわざ来ていただく魅力がないといけない。それがぼくの場合は、和歌山の食材を使った古典的フランス料理ということでした。
今、ガストロノミーとしてクラシックなフランス料理をやっているレストランは、ほとんどないですよね。東京では、先ほど挙げたお店のほかに、老舗であれば【シェ・イノ】さんや【アピシウス】さんなどがありますが、その次を探そうと思ったときになかなか見つかりません。さらに若々しさもあるお店っていうと、日本中探しても他には無いと言ってもいいくらいだと思います。
――確かに、クラシックなフランス料理であっても、最早レジェンドと呼べるようなシェフたちとも違ったエネルギッシュな魅力が手島シェフの料理にはあると思います。
やっぱり細かいニュアンスは違いますから。特に顕著なのは、ソースですね。あの世代の方々に共通しているのは、ソースを丸くしていくんです。それに比べると、僕はとんがった部分を残しがちです。技術的には主材料に対しての他の素材の噛み合わせ具合ではあるのですが、味に関してはギリギリのところを狙って、結構踏み込んでいる部分もあります。そこでノルかソルかはあると思いますが、ある一定の水準を超えていればどちらが正しいということではないので、お客様が決めていただければいいと思います。
――それにしても、王道なのに希少というのは、ねじれた状況になっているとも言えます。
若い料理人にとっては、クラシックなフランス料理を勉強できる場所もないということですから。みんながイノベーティブに行ってしまったら、ベーシックなフランス料理をつくることなく、修行時代を終えてしまったりするわけです。一方で、今うちで働いている若い料理人たちは、実際に食べて、感動したので働きたいという子が多いんです。そういう子たちが、将来どういう料理をつくるかは自由です。ここでクラシックを勉強した後に次は北欧に行くかもしれません。でも、ベーシックとは何かを知っていてやるのと、知らないでやるのとでは、振り幅が全然違うはずです。表層を真似することは器用な人ならさほど難しくはないと思いますが、フランス料理的な美味しさの方程式をきちんと体得した上で、新しいことにチャレンジした場合、その深みがまったく変わってくると信じています。
撮影/吉田 祥平 文/杉浦 裕
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