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原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏 原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏 原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏
原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏 原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏 原 太一 氏 & 後藤 裕一 氏

凄腕なのにカジュアル。レストランという場の
可能性を広げる2人のシェフ

【PATH(パス)】 原 太一氏 & 後藤 裕一 フレンチ

パティスリー、ワインバー、カフェなどの要素を内包しながらも、あくまでレストラン。片や【BISTRO ROJIURA】を育て上げ、片やフランスの三ツ星店でシェフパティシエを務めた2人が【PATH】で築く新しいレストランのかたちとは。原太一シェフと後藤裕一シェフパティシエのヨコガオに迫ります。

Interview

シェフとシェフパティシエ。
二頭体制から生まれる多様性とは

――ディナーをきちんとしたコースで食べられるかと思えば、自然派のワインも充実していて立ち飲みスペースもある。朝8時から営業していて、さらにパンのテイクアウトも可能。【PATH】はすごい情報量の多さですね。

原:そうですね。確かに、オープンしたての頃は、「何屋なんですか?」と、よく聞かれました。モーニングをやっているだけの店だと思われることもあって、友人にすら、「夜もやってるんだ?」なんて言われましたし。
後藤:時代に逆行しているのかもしれませんね。最近、パンケーキならパンケーキだけとか、コーヒーならコーヒーだけとか、専門店が多くなりましたが、うちは結構何でも屋的な感じですね。

――でも、それは時代に逆行してるわけではなく、新しいレストランのかたちだと捉えることができます。今日はそのあたりをお訊きしたいのですが、そもそもお二人で店を始めた経緯から振り返りたいと思います。

原:まずはタイミングですね。僕が【BISTORO ROJIURA】の次の店をやりたいなと考えている時に、後藤も自分の店を持ちたいと考えていたんです。
ただ、最初はお互い一緒にやろうかっていうのはなかったんですけど、いろいろと話しているうちに――例えば、僕はモーニングをやりたいと思っていたのですが、後藤も同じだったり、「パンのテイクアウトとか、お菓子とかできたら凄くない?」、「いいね、それ」みたいな感じで、お互いにやりたいことがとても近かったことが、一番大きかったのだと思います。
後藤:僕自身について言うと、自分はまず「レストラン・パティシエ」だと思っているんです。そういう人間が独立して自分の店を出すときに、どういう選択肢があるのか、ということをすごく悩みましたね。「レストラン・パティシエ」なので、一番の自分の武器は、コースのデセールだと思っているのですが、「自分の店で何をやるか」と考えると、パティシエなので、どうしてもパティスリーをやる前例しか見当たらない。と同時に、クロワッサンなどのベーシックなものもつくりたいと考えた時に、目標となるスタイルのお店が無かったことが、二人でやろうと思ったきっかけですね。

――確かに、物理的な時間としても、技術的な面にしても、一人ではできないスタイルのお店ですよね。

二人:そうですね。
後藤:それに、飲食業の長時間労働を無くしたいという思いも一緒だったんです。朝の営業をするにしても、例えば僕が店に朝いて、原が夜いれば、お店自体には必ずどちらかがいることができます。二人でやるメリットとして、提供する料理などの内容だけではなくて、店のあり方もいろいろ試せると考えたんです。

レストランのディナーに出してもおかしくない
レベルの料理を、あえてモーニングで

――では、それぞれの要素を見ていきたいのですが、朝から本格的な料理を食べられるところにまず目が行きますよね。

原:仕事の日、休みの日に関わらず、個人的にモーニングのお店に行くのが好きだということもあります。朝から良い雰囲気の場所で美味しいものを食べれば、すごく気持ちが良いじゃないですか。それに、海外に遊びに行くと、モーニングを楽しむカルチャーが既にある街も多くて、その影響もあります。そういうお店が日本にもあったら良いな、という思いがきっかけですね。
後藤:僕の場合は、フランスで働いていた【トロワグロ】の本店にホテルが併設されていて、朝食担当はパティシエの仕事だったんです。その経験から、ランチやディナーとは違った感覚で、お客さんがすごく喜んでくれることを実感していたので、自分の店でも朝食をやりたいとずっと考えていました。 原:で、やるからには、スープひとつにしてもレストランのディナーで出しているレベルのものを提供したいと、よく話し合っていました。それを、朝から出す。朝のメニューはそんなにひねってはいないのですが、例えばシンプルな『コーンスープ』でも、しっかりつくったものはこんなに美味しいんだ、ということを知ってもらいたい気持ちが強いです。そういった、ちょっとした感動が生み出せればという思いが強かったんです。
後藤:ただ、出すシーンが違うというだけのことですね。「本物」と言ったらおこがましいですけど、どの時間帯であろうが、職人がちゃんとつくっているものを食べてもらいたい、と。

職人がきちんとつくる料理を、
ストリートカルチャーに落とし込む

――これだけ多様なものを提供していると、普通だったら、イメージが離散してしまうと思います。それが【PATH】らしさにまとまるのは、やはりお二人のセンスが大きいですよね。

後藤:例えば店内の音楽は、原がセレクトした好きなものを流していたり、二人で決めた内装の雰囲気は、いわゆるフレンチではない感じであったり。でも、そういう雰囲気の店で出てくる料理やパン、デザートが、しっかりした職人の手によってつくられている。そのギャップみたいな感覚が良いのかなって。

――そこが、最初に話した【PATH】の面白さだと思います。雰囲気の良さにつられて気軽に入ったら、とんでもない本物が出てくる。そこには、お二人が料理人になる以前からの共通の感覚みたいなものも感じます。

後藤:僕の場合は、大学在学中はグラフィックだったりメイクだったり、そういう何かをデザインする仕事がしたかった。その時にちょうどアルバイトをしていたのが、デパ地下のイートインがあるケーキ屋さんで、そこでフランス菓子に出会って、「食べるものをデザインする」という仕事もあるんだと気づいたんです。
原:僕も10代の頃、音楽やインテリア、ファッションなんかが好きで、それがちょうどカフェブームの頃だったんです。「好きなものが全部あるじゃん」とカフェにハマって、自分でも店を持ちたいなと思うようになりました。当時はまだ、レストランレベルの料理を出しているカフェがなくて、それで料理の勉強を始めました。美味しいカフェ飯レベルではなくて、ちゃんとしたレストランで学んだ料理をカフェの雰囲気に落とし込みたかったんですよね。

――世界的な流れとしても、きちんと技術とセンスを持った料理人の方々が、それぞれのやり方で、カジュアルに楽しめるお店をつくり出し始めていますよね。【PATH】にもそういった新たな風のようなものを感じます。

後藤:本当に感動してもらえる美味しいものを、友人や家族などの身近な人にも、もっと気軽に食べてほしいという感覚ですね。
原:僕も雇われで働いている頃、美味しい料理を沢山食べたり、自分たちでもつくったりしていたのですが、当時の友人たちは、そういういわゆる良いレストランには全く関心がなくて。「こんなに美味しいものがあるんだよ」というのを知ってもらいたいんだけど、「値段が高いよ」とか「気も遣うし、その辺のお店でいいじゃん」みたいな感じで。
 【ROJIURA】をオープンした時は、そういう人たちに向けてやっている部分も大きかったので、良いものをストリートカルチャーに落とし込みたいと、ずっと考えていました。居酒屋に行く感覚で当たり前のようにビストロに来てもらえるとか、レストランに来てもらえるとか。

――それは実践できていますね。

原:そうですね。最初は友人たちもみんな、「ワインなんて難しいよ」と言ってたんですけど、最近では「ヴァンナチュール、やっぱりいいね」なんて言う友人が出てきたりして、それってすごく素敵なことだと思うんです。
後藤:【PATH】に来てくれる人たちも、普段からガストロノミックなレストランに行っている人もいれば、逆に初めてフレンチを食べに来る人も多いですし。こっちの席ではコースを食べてるんだけど、向こうではガチャガチャやってるとか、そういう感覚がやりたかったことなんです。
原:モーニングをやることで、朝から若い子たちやミーハーな子たちも来ますし。でも別にミーハーでもいいのかなって。
 僕自身、新しいレストランや新しいカフェが出来たらすぐ行くし、元々すごくミーハーなタイプだったので、きっかけはそれで全然良いと思います。レストランは遊びに行く場所だと思っているので、そういうノリで来てもらえる感覚が、もっと根付いていったら面白いなって思っています。

仕事のアウトプットの質をあげるためのインプットの充実。
労働環境を改善することもテーマに

――今後については、何かビジョンをお持ちですか。

後藤:最初にも話しましたが、飲食業界の労働時間の長さは変えたいです。まずは本気で、週休2日をうちぐらいの規模感のお店で実践したいと思っています。長時間労働で休みも少なく、体力的にきつくて辞めてしまうという話も少なくないので。その問題をどうにかしたいという気持ちと、自分たちもちゃんと休みを取って、趣味の時間などに充てたいという気持ちもあります。プライベートでインプットを充実させれば、仕事のアウトプットの質も上がると思いますしね。
原:もちろん僕はつくるのも好きなので、自分で料理をつくってはいたいのですが、週休2日にするには僕らがいなくても、しっかりと店が回るようにしなければ、ということですね。
後藤:そのためにも人をちゃんと育てていく重要さを実感しています。僕自身としても、もっとやることを濃くしていかなければな、と。
原:確かに。もっとぎゅうぎゅうに詰めて質を上げて、確固たる【PATH】というお店を築き上げなくちゃいけない。
後藤:まだそこに行きついていないので、これからの課題としては、そこだと考えています。

撮影/佐藤顕子 文/ヒトサラ編集部(2017.1.25取材)

シェフの裏ワザ

【PATH】流、パンへのこだわり

「感動してもらえる美味しいものを、もっと気軽に食べてほしい」と語る後藤シェフパティシエ。あえて高級な食材を使わず、生産者によって丁寧につくられたものを、パティシエの腕で一級の味に昇華しています。「特に、この食材を使うということは決めていません。その時々で、美味しいと感じるものや、信用できるものを使っています」とシェフパティシエ。手頃な価格でありながら、職人がつくる本当に美味しいものが食べられる、【PATH】のこだわりを感じます。

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